「父のおかげで生活できていることに感謝するものとする」→何でも書類作成し…
・子どもの頑張りをディスりまくる
・感謝の気持ちをサインで示させる
・ある日いきなり「合意書違反だ! 」
人の心を縛る約束など、この世に存在しません。でも、約束の万能さを信じるモラハラ夫は、家庭の円満、夫への感謝、家族の祝いごとなど、家族の行動や気持ちの全てを書面へのサインで管理しようとします。
専業主婦のJ美さんは、小学・中学・高校生3人の子どもを育てる48歳。夫は士業の50
歳。無口で頑固、頭も固く、家事育児は妻の仕事という昔ながらの父親像が、そのまま服を着て歩いているような人だと言います。
18年前に出会った当初から、真面目で融通が利かない杓子定規(しゃくしじょうぎ)な面はありましたが、頭脳明晰で仕事もしっかりしている。夫としては良い人だと思い、J美さんは結婚に踏み切ったそうです。
子どもの世話をしないのは、世代的にも想定済み。もちろん、少し手伝ってくれたらと思うこともありましたが、不器用な夫にお願いするほうが面倒なので、割り切っていたと振り返ります。問題はそれよりも……。
長男が中学に入った頃、学校の勉強についていけなくなり成績が悪化。夫に見てもらおうとお願いをすると「人に聞くな、自分で考えさせろ!」と一蹴。改めて、長男から夫に直接聞きに行かせると「そんなものもわからんのか!」と怒鳴り、そこから息子への説教が始まりました。
またある時は、長女が焼いたクッキーを食べて「買ったほうがうまいな」と嫌味を言いました。次男に対しては、少年野球に熱中していることを知ると、試合前日の夜にリビングに呼び出して、「スポーツを一生懸命やって何になる? どうせプロになんてなれないんだから勉強しろ」と言ったのです。
ずっとそんな調子のため、当然、子どもの心はどんどん父親から離れていきました。接触は最小限に、やりとりをする時は腫は れ物を扱うような態度で接するため、気づけば夫は家庭内で完全に孤立していました。
ある時、いつものようにJ美さんと子どもたちが外食して帰宅すると、リビングで夫が酔いつぶれていました。避けるように自室に行くJ美さんたちに、夫は「今日は何の日か知っているか」と怒鳴りました。この日は夫の誕生日。昔は家族の誕生日やクリスマスはみんなでお祝いしていましたが、夫が機嫌を損ねて「誰の金だ、こんな無駄なことする暇があったら勉強しろ」と台無しにするので、もう何年もお祝いはしていませんでした。
夫は家族全員をリビングに座らせます。何が始まるのか、と緊張が走るなか、夫は1枚の紙をテーブルに置いて、「ここにサインしろ」と言いました。文頭には「合意書」と書かれています。続いて「家族として、円満に過ごしていくものとする」「父のおかげで生活できていることに、日々感謝するものとする」との箇条書きが。