“「質素こそ正義!」美容禁止”夫
・口座の場所は知らされない
・美容院や化粧品は無駄遣いだから禁止
・社宅の中で「ボロボロ」を強制
妻らしく、母らしく。時代は変わったと言われても、女性に対して、理想像を押し付けてくる人はいます。それが結婚相手だとしたら……? 夫からの抑圧で失った「自分らしさ」を、取り戻すまでの事例です。
夫婦の出会いは3年前。結婚相談所のお見合いでした。家庭的な性格で、専業主婦志向が強かったD子さん(31歳)。大手銀行員という男性と会ってみると、なかなかに素敵な人で、性格面も堅実そう。そのまま交際に発展して、数ヵ月後には入籍。銀行の社宅で新婚生活が始まりますが……。
まず夫から告げられたのは、「銀行員の家庭は夫が家計管理するのが普通。銀行員にとって口座の場所は機密事項だから、夫婦でも教えないという内規になっている」ということでした。そういうものなのかと夫の説明を受け入れ、D子さんは毎月決まった額を夫から渡され、そこから食費や日用品を購入することになりました。
社宅は妻同士の交流が盛んで、夫からは出世に関わるから参加するように言われました。人づき合いは苦手なD子さんですが、頑張ってお茶会に出ているうちに、自分だけが毎回同じ服なのが気になり始めました。ある日、夫に新しい服が欲しいと話すと、「別に同じ服でいいだろ、誰も見てないよ」と気がなさそうな答えが返ってきました。
D子さんは、結婚して以来、洋服を買っていませんでした。渡されるお金は生活費でぎりぎりで、自分のものを買う余裕がなかったのです。一方夫は、営業職だからとブランド品で身を固めています。
さすがに恥ずかしくなってきたD子さんは、独身時代の貯金で柄物のワンピースを買いました。帰宅した夫に見せようとショップの紙袋を出すと、夫の表情が一変。「何だそれは」と紙袋を奪われました。中から出てきた柄物のワンピースを見て、夫は激高。
「こんな派手な格好するな、浪費家の嫁がいると思われるだろう!」とワンピースを投げつけました。自分だけいつも同じ服で恥ずかしい、あなたはブランドのスーツを着ているじゃない……とD子さんが泣きながら話すと、夫は「専業主婦のくせに銀行員の俺に口を出すのか」と一言。
この件を皮切りに、夫の度を越えた質素倹約と理想像の押し付けが加速していきました。
ダサいとか垢抜けないではなく、「ボロボロ」だった
イヤリングをつければ「下品だ」とののしられ、下着を新調すれば「浮気でもするのか」と疑われる。
化粧品を買うことも、美容院で髪を切ることも、全て主婦には不要の無駄づかいと禁止されます。次第にD子さんの心は沈んでいき、全ての外出がゆううつになっていきました。
美容室に行くのは実家に帰省した時だけ。化粧品は自分の貯金からこっそり購入します。ある時ついに貯金もなくなり、両親に相談すると「旦那さんは銀行員なのに、なんでそんなにお金がないの?」と言われました。
これまでのつらさが一気にこみ上げて、D子さんは号泣してしまいました。ぎりぎりの生活費しかもらえない、自分で買っても怒鳴られるとようやく打ち明けたD子さんは、両親とともに私のところに相談に訪れました。
相談に来たD子さんの姿は、一言でいうと「ボロボロ」でした。ダサいとか垢抜けないとか時代遅れとかではなく、「ボロボロ」なのです。毛玉だらけのニット、履きつぶれた靴、頭にはたくさんの白髪……。33歳という実年齢よりもはるかに上の印象を受けました。