円安は良いのか、悪いのか
急速に円安が進むなか、日本では「悪い円安」論が広がっています。円安にはメリットとデメリットの両面があります。悪い円安というのは、円安のデメリットがメリットを上回るときによく論じられます。
ではそもそも、円安のメリットとデメリットとは何でしょうか?
◆円安のメリット
メリットから考えていきましょう。まず、円安になると輸出企業の利益が増えるというプラスの効果があります。これは円安で輸出物価が高くなるためです。
たとえば、1ドル=100円のときに、商品を10ドルで海外に販売したとしましょう。
すると、10ドル×100円=1,000円が、輸出企業が外貨で得た代金を円に換算したときの売上高となります。
今、為替レートが1ドル=130円になったとします。つまり、円安・ドル高になったということです。
このとき、同じ商品を10ドルで販売しても、日本円での売上高は1,300円となり、売り上げが伸びたことになります。
つまり、円安が進めば、輸出企業が外貨で得た代金を円に交換するときに、より多くの円を手に入れることができます。商品を作るコストが変わらなければ、その分、利益も増えることになります。
しかしながら、現在ではこうしたメリットが薄くなっているとの指摘もあります。
日本経済はかつて輸出型産業が牽引(けんいん)してきたため、円安は輸出競争力を後押しし、経済成長に貢献してきました。ところが、今日では輸出企業が生産拠点を海外に移しているため、円安による輸出のメリットは小さくなっていると言われているのです。
もっとも、輸出ではなく現地生産で海外売上高が増えた際でも、円安のほうが円換算後の企業の利益は高まります。
また、円安になると海外からみた日本の財やサービスの価格は相対的に割安になるので、海外需要が増えるというメリットがあります。
新型コロナウイルス感染症の影響により、訪日外国人旅行者数は大きく減少していますが、円安は本来、海外からの観光客を増加させる効果を持ちます。外国人旅行者が日本国内でお金を使えば、日本経済にプラスとなります。
◆円安のデメリット
一方、円安のデメリットとしては、輸入物価が高まることがあげられます。エネルギーや原材料を輸入に依存する企業にとっては、円安が進むと輸入コストが上がり、採算が悪化します。
円安とエネルギー高による輸入金額の増加は、輸入企業の円売りを増やし、さらなる円安圧力につながります。輸入業者だけではありません、円安はエネルギーや食料品の価格を引き上げ、家計の負担となります。
ウクライナ危機により、エネルギーや食料品価格が上がっているなかでの円安は家計にとって大きな打撃です。
また、円安だと、企業が技術開発を行ったり、産業構造を改革したりしなくても利益が増えるため、日本の生産性の停滞を助長したという見解もあります。
円安には、輸出企業の利益を増やすというメリットの裏側に、長期的には古い産業を温存し、技術開発の妨げになるというデメリットもあるということです。
宮本 弘曉
東京都立大学経済経営学部
教授