3―干ばつの種類と影響
干ばつは、長い間雨が降らず、水が涸れることをいう*5。干ばつにはいくつかの種類があり、様々な形で、自然や人間社会に影響をもたらす。本章では、干ばつの種類や影響について見ていこう。
*5:「広辞苑 第七版」(岩波書店)では、次の語釈がなされている。【旱魃】(古くはカンバチとも。「魃」は、ひでりの神)長い間雨が降らず、水が涸かれること。ひでり。特に、農業に水の必要な夏季のひでりにいう。〈[季]夏〉。「―の被害」
1.気象干ばつが連鎖して、土壌干ばつ、さらに水文干ばつにつながる
干ばつについては、いくつかのタイプがある。干ばつのタイプ分けを行い、その進行について類型化した研究として、ヴァン・ルーンとヴァン・ラネンによる研究*6が知られている。それによると、干ばつには3つのタイプがあり、それらが連鎖的に発生するという*7。
まず、降水量が平均より少ない状態が続くと、「気象干ばつ」が発生する。気象干ばつは、植物の生長を阻害したり森林火災などのリスクを高めたりする。次に、気象干ばつが続くと、土壌の水分量の低下をもたらし、「土壌干ばつ」が発生する。土壌干ばつは、「農業干ばつ」とも言われ、農業や畜産業などに被害をもたらす。そして、土壌干ばつが継続すると、地表面や地下の水に影響を与えることで「水文(すいもん)干ばつ」が発生する。水文干ばつは、水資源の供給に障害が生じて、生活用水・工業用水などを不足させて、社会に大きな影響を与える。
土壌干ばつや水文干ばつは、気象干ばつから遅れて発生する。また、土壌干ばつや水文干ばつの発生には、気象干ばつの発生期間の長さが影響するとされる。
*6:“A process~based typology of hydrological drought”Van Loon, A. F., and H. A. J. Van Lanen (Hydrol. Earth Syst. Sci., 16, 1915~1946, 2012)
*7:本節の説明は、「標準化降水指数(SPI)」(気象庁HP)の「干ばつのタイプについて」を参考に、筆者がまとめた。(アドレスは、https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/climatview/spi_commentary.html#:~:text=標準化降水指数)
2.干ばつは、短期・中期・長期に渡り、様々な影響をもたらす
それでは、干ばつはどのような影響をもたらすだろうか。国連の報告書等をもとに、時間軸を用いて主なものをまとめたところ、次の表のようになった(図表2)。
日本は、海外ほどの深刻な干ばつリスクには、さらされていないとみられる。しかし、農作物・畜産物の収穫減少のように、海外の干ばつの影響が日本に波及する可能性はある。食料自給率が40%未満*8の日本では、食料を海外の輸入に頼らざるを得ず、干ばつリスクを回避することは困難と言える。
*8:令和3年度カロリーベース総合食料自給率。1人1日当たり国産供給熱量(860kcal)/1人1日当たり供給熱量(2265kcal)=38%と算出。分子及び分母の供給熱量は、「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に基づき、各品目の重量を熱量(カロリー)に換算し、それらを足し上げて算出。(「食料自給率とは」(農林水産省HP)より(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html))
4―干ばつの発生とリスク
世界の干ばつ被害の発生やリスクの分布はどうなっているのか。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書等をもとに、見ていく。
1.乾燥日数の増加は、アフリカや南米で進んでいる
IPCCは、2021年より第6次評価報告書の公表を行っている。この報告書は、3つのワーキンググループ(WG)による報告書と、全体の統合報告書に分かれており、現在までにワーキンググループの報告書が公表されている(図表3)。
気候変動の予測を行う第1ワーキンググループが公表した報告書では、1960~2018年における、乾燥日数の増減トレンドが次表のように示されている。アフリカの南部やサハラ砂漠地域、南米の西海岸地域等で、乾燥日数が増加トレンドにあることがうかがえる。
2.干ばつの影響は気づかれないうちに徐々に進行する
干ばつの影響は、世界各地で進行している。これには、他の自然災害と大きく異なる点がある*9。
一般に、洪水、地震、ハリケーン、台風といった自然災害は、建築物などの構造的な被害を短時間のうちに、目に見える形で引き起こす。基本的に、被害は自然災害が発生した地域が中心となるため、被害地域は一定の範囲に限定される。このため、リスクを感知しやすく、事前の対策がとりやすい。
一方、干ばつは、ゆっくりと進行する。多くの場合、降雨のない日が連続して、徐々に水不足が深刻になっていく。だが、環境や社会への悪影響が明らかになるまで、干ばつ状態は気づかれにくい。干ばつの発生は、広範囲に渡ることが一般的であり、一たび被害が発生すると深刻化しやすい。また、一旦降水が戻った後も、再び干ばつが悪化するといった、繰り返しのリスクがある。さらに、被害が社会的貧困と結びつきやすい、という特徴もある。このため、有効な対策を取りにくいことが多い。
*9:本節の内容は、“Drought Risk Assessment and Management ~ A Conceptual Framework ~”(European Commission, JRC Technical Reports, 2018)を参考に、筆者がまとめた。
3.干ばつリスクは、中央アジア、東南アジアなどでとても高い
気候変動の影響を見積もる第2ワーキンググループが公表した報告書では、干ばつリスクの分布が示されている。各地域の干ばつに対するハザード(危険)、脆弱性、曝露の状況を評価したうえで、それらをもとに干ばつリスクを指数化したものとされている。次の図が、その分布となる(図表4)。
それによると、中央アジアやインド、東南アジアなどには、リスクがとても高いとされている。リスクが高いとされる地域は、ヨーロッパほぼ全域、中国、中米、アフリカ諸地域など世界各地に渡る。人口密集地域は曝露が大きくなるため、干ばつリスクも高くなる傾向があるものとみられる。
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
注目のセミナー情報
【税金】11月27日(水)開催
~来年の手取り収入を増やす方法~
「富裕層を熟知した税理士」が考案する
2025年に向けて今やるべき『節税』×『資産形成』
【海外不動産】11月27日(水)開催
10年間「年10%」の利回り保証
Wyndham最上位クラス「DOLCE」第一期募集開始!