1―はじめに
気候変動問題を巡る動きが世界中で活発になっている。温暖化をはじめ、台風や豪雨による災害の激甚化、海面水位の上昇など、様々な形で、その影響が出始めている。
そうした影響の1つとして、干ばつの深刻化が挙げられる。日本では、干ばつ問題は、他の問題と比べるとあまり人々に実感されていないかもしれない。しかし、世界的には、干ばつ問題は、他の自然災害と同様、気候変動による重大な影響の1つとして、注目されている。
本稿では、まず、世界の干ばつ問題の現状を踏まえる。そのうえで、干ばつリスクの管理に向けた世界の動向を見ていくこととしたい。
2―干ばつと日本の湿潤気候
干ばつについては、世界中で被害状況が監視されており、様々な機関から報告がなされている。まず、国連砂漠化対処条約(UNCCD)*1が昨年公表した報告書をもとに、干ばつの状況を概観してみよう。
*1:UNCCDは、United Nations Convention to Combat Desertificationの略。
1.「23億人以上が水ストレスに直面」(UNCCD報告書)
この報告書では、干ばつの実態を数字で示している。例えば、次のような指摘が述べられている(図表1)。
「2022年には、23億人以上が水ストレスに直面」など、どの指摘も、干ばつの深刻な実態や厳しい見通しを述べたものだ。だが日本の人にとっては、あまり実感がわかないかもしれない。日本はほぼ全域が湿潤気候に属しており、深刻な干ばつリスクを身近に感じる機会が少ないためと考えられる*2。
*2:ただし、干ばつリスクにさらされてきた地域もある。たとえば、瀬戸内地域は、空気が乾燥しやすく日照時間が長い気候条件にあり、古くから干ばつに直面してきた。同地域では、溜池やダムなどによる水資源の確保が行われている。
2.日本の湿潤気候は、モンスーンによる梅雨と日本海側の冬季多雪が原因
そもそも、なぜ日本は湿潤気候なのか。これには、モンスーン(季節風)が影響しているという*3。東アジア地域では、2300万年前にモンスーンが始まったとされる。モンスーンには、夏季モンスーンと冬季モンスーンがある。
日本では、夏季に、高気圧となっている太平洋から陸地に向かって強い風が吹く(夏季モンスーン)。その際、太平洋の上空には黒潮(暖流)から生じた湿った空気があり、それが列島の山地にあたって雨が降り、梅雨の時期ができる。太平洋側を中心に、顕著な梅雨の時期が訪れる。
一方、冬季には、高気圧となっているユーラシア大陸から南東方向に乾燥した風が吹く(冬季モンスーン)。その際、日本海の上空には対馬海流(暖流)によって生じた湿った空気があり、それが風によって日本海側にもたらされる。列島の山地にあたって雪が降り、多雪の時期となる。
日本は、こうした梅雨や冬季多雪のために湿潤気候となり、干ばつが深刻化しにくいとされる*4。
*3:本節は、「日本の気候変動5000万年史-四季のある気候はいかにして誕生したのか」佐野貴司・矢部淳・齋藤めぐみ著(講談社,ブルーバックスB2212,2022年)を参考に筆者がまとめた。
*4:世界的には、日本が位置する北緯30度付近は乾燥気候が多い。例えば、北アフリカから中東までの地域、メキシコからアメリカ中西部にかけての地域では、砂漠などが広がっている。東アジアの湿潤気候は特異と見ることができる。
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