税法の基本を知れば回避できたこと
上記の顛末をみるにつけ、生命保険業界の深刻な人材不足(顧問税理士等の専門家も含めた)が露呈したといわざるをえません。
というのも、「名義変更プラン」は、税法理論の見地からきわめて「クロ」に近いグレーであることは明らかだったからです。
すなわち、一部の生命保険会社や営業マンが「名義変更プラン」を正当化していた理屈は、「通達における保険契約の評価方法に則ったもの」「通達で禁じられていない」というものでした。
しかし、「通達」はそもそもが、行政機関内部の法解釈の統一性をはかるための基準にすぎません。決して体系的・網羅的ではなく、イレギュラーな事態も想定していません。
しかも、法規範性、つまり一般社会に対する通用力・拘束力はまったくありません。
そもそも、「所得税法」「法人税法」には、「同族会社の行為計算否認規定」という条文が設けられています(所得税法157条、法人税法132条1項)。
これは、法人と経営者等との間の取引において、所得税、または法人税の負担を不当に減少させる異常な取引形式が選択された場合に、それを否認するというものです。
すなわち、通常の第三者との取引ではありえない「経済合理性」の乏しい取引が行われた場合に、通常の第三者との取引に引き直して評価して税負担を計算し直すことを認めるものです。
この規定がある以上、「名義変更プラン」は通達に関係なく「経済合理性が乏しい」ということで否認されるリスクを常に抱えていたといえます。
そもそも、「名義変更プラン」は、あえて会社に損失を与え、その半面、個人が利益を得るというものであり、「同族会社の行為計算否認規定」の典型的な適用場面ともいえます。税務当局が本気で突っ込んできたら、どうやって「合理的な説明」を付けるつもりだったのでしょうか。
実際に、一部の生命保険会社、保険代理店は、2016年頃から、この名義変更プランについて否認のリスクがあることを理由に取り扱わなかったり、顧客に対する注意喚起を行ったりしてきていました。一部の保険のウェブメディアにおいても、「名義変更プラン」のリスクについて税法理論の見地から解説を加え注意喚起をしていたところがあります。
そうであるにもかかわらず、2019年の「バレンタインショック」のあとになっても、この期に及んで一部の生命保険会社や代理店、営業マンが積極的に販売してきたということは、大きな失態であったといわざるを得ません。
なぜか外資系の「マニュライフ生命」「エヌエヌ生命」のみが狙い撃ちにされている感がありますが、日系の大手生命保険会社も同様の批判を免れません。
「同族会社の行為計算否認規定」の背後には、租税公平主義という税法の基本原理があります。このことは、どの税法の教科書にも書かれていることです。
今回の件について、生命保険会社や保険代理店に、顧問税理士や弁護士等の専門家も含め、上記の問題点があるという疑問を抱いた人が皆無であったとすれば、あまりにお粗末であり、人材不足が深刻を極めているといわざるをえません。
あるいは、疑念を抱く人がいたにもかかわらずそれが吸い上げられなかった、あるいは顧みられなかったというのであれば、生命保険業界が構造的な「モラルリスク」を抱えていると断ぜざるを得ません。
いずれにせよ、「名義変更プラン」をめぐる一連の顛末は、生命保険業界の体質に対し、大いなる猛省を促すものといえます。
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