(※画像はイメージです/PIXTA)

回転寿司チェーン大手「スシロー」で、高校生の少年が醤油ボトル、湯呑み、寿司に唾液を付着させた事件について、どのような法的責任が問われるのかが話題となっています。なかには、親の責任に言及するものもあります。しかし、実際には、親の法的責任を問うことは容易ではありません。本記事では、親の法的責任を問ううえでの問題点について整理してお伝えします。

親の「民事責任」を問うのは困難?

少年は高校生で未成年とのことなので、親は少年の保護者として監督義務を負います。そこで、監督義務者としてどのような法的責任を負うかが問題となります。

 

◆監督義務者等としての責任を問う方法

この点については、まず、民法714条1項に「責任無能力者の監督義務者等の責任」という条文があります。

 

【民法714条1項】

「(略)責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

 

この条文によれば、監督義務者である親は、少年が「責任無能力者」である場合に限り、少年が他人に与えた損害について、原則として損害賠償責任を負うことになります。

 

しかし、「責任無能力者」はおおむね12歳未満をさすので、高校生ともなれば「責任無能力者」というのは無理があります。

 

したがって、本件で民法714条を根拠に親に賠償責任を負わせるのは不可能です。

 

◆親自身の法的責任を直接問う方法

ただし、その場合でも、最高裁判所の判例によれば、不法行為責任の一般規定である民法709条を根拠として直接、親自身の不法行為責任を問う余地はあります(最判昭和49年3月22日)。

 

なぜなら、民法714条は、親の固有の不法行為責任をストレートに問うことまで否定する趣旨ではないからです。

 

では、本件で、民法709条を根拠に、親の固有の不法行為責任を問うことは可能でしょうか。以下、上記最高裁判決の文面を引用します。

 

【最判昭和49年3月22日】

「未成年者が責任能力を有する場合であっても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する。」

 

つまり、親の少年に対する監督義務違反と、スシローが被った損害との間に「相当因果関係」が認められれば、親はスシローに対し固有の損害賠償義務を負うということです。

 

そこで、まず、親にどのような監督義務があったかが問題となります。これは、性質上、かなり広範なものとなりえますが、結局は以下の2つに集約されます。

 

・物事の善悪について教育する義務

・もしも少年が悪いことをしようとしているのを知ったら直ちに止める義務

 

もしも、少年の親がこれらの義務を怠っていたということになれば、「監督義務違反」は認められることになります。

 

そこで、次に問題となるのが、スシローが被った損害との間の「相当因果関係」です。しかし、これは容易ではありません。また、高校生ともなれば、親のいうことを素直に聞かなくなるという問題があります。

 

民事法の大原則に「過失責任の原則」というものがあります。その例外はごく限られています。上記民法714条1項も、「過失責任の原則の例外」ではなく、親に「自身に過失(監督義務違反)がないこと」の立証責任を負わせたものにすぎない(立証責任の転換)というのが定説です。

 

スシローは少年の民事責任・刑事責任を問う姿勢を見せており、親に対しても民事上の責任を追及が行われる可能性があります。しかし、示談になる場合はともかく、裁判所が「判決」において親の監督義務違反を根拠に損害賠償責任を認めるかどうかについては、上述したように、「過失責任の原則」とのかかわりでかなり難しい問題が含まれているといわざるをえません。

 

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