(※画像はイメージです/PIXTA)

回転寿司チェーン大手「スシロー」で、高校生の少年が醤油ボトル、湯呑み、寿司に唾液を付着させた事件について、どのような法的責任が問われるのかが話題となっています。なかには、親の責任に言及するものもあります。しかし、実際には、親の法的責任を問うことは容易ではありません。本記事では、親の法的責任を問ううえでの問題点について整理してお伝えします。

親は「共犯者」ではない?

今回の事件について、一部で、動画を撮影していたのは少年の父親ではないか、その場に居合わせたのではないかとの憶測が流れていました。もし、そうであれば、父親も「共犯」ということになり、刑事・民事の両方で、基本的には少年と同等の責任を問われることになります。

 

しかし、少年の父親にインタビューした「週刊ポスト」の報道によれば、父親は、事件発生当時、撮影したことを否定しているとのことです。また、父親について「実直な性格であることが窺える」とも表現されています。

 

したがって、以下では、あくまでも、親が現場に居合わせていなかったという仮定の下、解説を行います。

問題となりうるのは「民事責任」だけ

親が現場に居合わせなかった場合、その法的責任の存否・内容は、少年の行為にどのように関わったかによって決まります。

 

そこで、前提として、少年の法的責任がどんなものか概説します。詳しく知りたい方は2月10日の記事「【検証】『スシローペロペロ事件』で少年に『168億円の賠償責任』を問うことが無茶すぎるワケ」をご覧ください。

 

まず、少年の「刑事責任」については、一連の行為について「威力業務妨害罪」(刑法234条)と「器物損壊罪」(刑法261条)の2つの犯罪に該当します。

 

しかし、親は、現場に居合わせておらず、少年の行為について物理的にも心理的にも因果的寄与を及ぼすことはいっさいできません。したがって、親の刑事責任はそもそも問題となり得ません。

 

したがって、論じられるべきは、民事責任がどうなるかということだけです。

前提となる少年の「民事責任」

少年は、不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法709条)。「故意」によってスシローの「権利または法律上保護される利益を侵害」し、これによって「損害」が発生したことは明らかです。

 

問題は損害賠償の範囲、つまり、どこまでの損害が対象となるかです。判例・学会の通説においては、事実的因果関係があるだけでは足りず、社会通念上「通常生ずべき損害」といえるかという規範的評価が加えられます(民法416条参照)。

 

今回の事件では、スシローが醤油さしや湯呑みを買い替えたこと、店内の設備を掃除したこと、店舗のスタッフや社員が対応に追われたこと等が、「通常生ずべき損害」にあたると考えられます。

 

また、事件のせいで客足が遠のき売上が減少したという事実があれば、「通常生ずべき損害」となりえます。ただし、現時点で、そのような事実は確認されていません。

 

これに対し、再発防止のためオペレーションを変更するになった場合、そのためにかかった費用は衛生管理の強化のための費用なので、「通常生ずべき損害」とはいえません。

 

なお、「株価下落」「時価総額下落」につき100億円を超える賠償責任を問うべきと指摘する声も一部にみられますが、前述の記事で検証したように「事実的因果関係」すらあやしいので、不可能です。

 

このように、今回の事件においては、スシローが備品を買い替えたこと、店内の設備を掃除したこと、店舗のスタッフや社員が対応に追われたこと等により生じた費用が、賠償責任(民事責任)の対象となると考えられます。

 

したがって、賠償金の額は高くてもせいぜい数百万円ということになる可能性が高いといえます。しかし、まだ高校生である少年がその額を直ちに賠償することは、実際問題として困難です。

 

そこで問題となるのが、親に賠償責任を負わせることができるかということです。

 

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