立場が逆転した「株式市場」と「経済」の関係
もう一つ問題なのは、いまの米国の株価を見ればわかるが、実体経済とかけ離れていることである。
本来であれば、株価もしくは相場、あるいは金融市場とは、経済の派生的な立場のものにすぎない。
つまり経済が先で、人々が働いていて付加価値の高いもの、サービス、商品をつくって、その結果としてキャッシュフローが生まれて、利益が生まれる。それに伴って最終的には金融資産が上昇したり、下落したりするわけである。
ところが、いまの世の中、金融市場が経済のど真ん中に鎮座しているのである。経済がど真ん中にあるのではない。つまり、景気が悪くなるから金融危機が起きるのではなく、金融危機が起きるから景気が悪くなってしまう。経済により株価が動いているのではなく、株価により経済が動いてしまっている。言葉を換えると、経済が、株価もしくは金融市場の人質に取られている。そう考えていい。
だから、FRBも他の中央銀行も、引き締めを長らく躊躇してきたわけだ。引き締めをやろうとした途端に株価が暴落し、それが結局は不況につながる。ひどいときには金融危機につながる。彼らはこうした仕組みをよく理解していたにもかかわらず、リーマン・ショック以降はこの状況がより鮮明になっていた。
しかしトラップに嵌まったような状況に陥っていたのを、2022年3月、FRBはようやく政策転換し、利上げを開始することになったのだ。
「米FRBは世界の中央銀行である」と断言できるワケ
FRBはもはや単なる米国の中央銀行ではなく、実質的に世界の中央銀行みたいなものである。その典型的な例を挙げると、これは日銀も同じなのだが、FRBは必要な国にドルを供給しており、これをスワップラインという。その国の通貨とドルをスワップ(交換)しているわけだ。
具体的には、どこかの新興国で危機的な事象が起きようとする前に、そこにFRBがお金を貸す。つまりドルのクレジットライン(与信)を設けて、その国の通貨を安定させる。そういう意味において、世界中がドルでつながってしまった。大仰でなく、もはや特定の国の株式動向などは、どうでもよくなってきているのだ。
そうしたひどい状況はこの1年間でさらにエスカレートしてきた。米国をはじめとする先進国のエコノミストやアナリストは、すでに各種マクロ指標を分析するのを止めて、まるで占い師みたいに次にパウエルFRB議長が何を言うのかを論じ、彼の発言後はその分析ばかり行っている。実際の景気がどうなっているかには、あまり関心を払っていないかのようにさえ見えてしまう。
エミン・ユルマズ
複眼経済塾取締役・塾頭
著者画像撮影 Rikimaru Hotta