(※写真はイメージです/PIXTA)

様々な要因によって世界的なインフレが起こり、将来の展望が正確に描けない昨今。自身の資産を守り、未来につなげていくためには、どのような行動を取ればいいのでしょうか。複眼経済塾の取締役・塾頭、エミン・ユルマズ氏が、著書『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)から、世界経済の展望と、日本経済にに潜むチャンスについて解説します。

リーマン・ショック前よりはるかに拡大した現在のスーパーバブル

「新たなバブルは前のバブルよりも必ず大きい」

こういう相場の何が問題なのか。

 

一つは、まずキャリートレードは必ずレバレッジを含むということだ。レバレッジがどんどん膨らんでいく。クラッシュが起きるたびに中央銀行がそこに介入して、さらに大きなバブルをつくる。つまり、新たなバブルは前のバブルよりも必ず大きいわけである。いまは米国株バブルだけれど、これはリーマン・ショック前のバブルよりはるかに大きくなっているスーパーバブルだ。

 

たとえばS&P500のPSRは3倍にもなっている。またバフェット指数は本来であれば80%が妥当なのだが、いまは200%にまで上がってしまった。GAFAの時価総額だけで、日本株の時価総額のトータルを大きく超えてしまったのだ。

 

したがって、いま米国は史上最大のバブルの真まっ只ただ中にあるわけで、膨らみすぎたバブルになれば、バーストは避けられない。なぜならば、レバレッジを永遠に膨らますことはできないからだ。どこかに限りがあって、最終的には息切れする。

 

もしくは、何か外部要因をきっかけに株価が下がり始めると、過剰なレバレッジ状況のなかでみなが資金回収せねばならず、売りが売りを呼ぶ展開になる。そして今度は買い手がつかない状況になってしまう。

「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」破綻の例

典型的な例が、先に説明したが、2021年3月末、アルケゴス・キャピタル・マネジメントが破綻したときだった。アルケゴス・キャピタルの代表はビル・フアンというコリアン・アメリカン。もともとはなかなかアグレッシブなファンドマネージャーだった。

 

彼が何をしでかしたかというと、約200億円の軍資金に過剰なレバレッジをかけてさまざまな株の株価を吊り上げて、10年かけてトータルで1兆5,000億から2兆円まで拡大させていたと言われている。さらに最終的には12兆円ぐらいのポジションを持っていたのではないかともされていた。

 

当然ながら12兆円のポジションをもってしまうと、手持ち株が2割下がったら、全部が吹っ飛ぶ。アルケゴス・キャピタルで起きたのはそれだった。

 

特に彼は、中国のオンライン教育関連株やメディア株に積極的に投資していた。2021年初めに中国株が一気に3割下がったから、ひとたまりもなかったというわけだ。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

結果的には、自分が吹っ飛んだだけでは済まなかった。持っていたポジションほどビル・フアンには元金がないから、野村證券やUBSなどといった取引先企業が、巨大な損失を被った。破産した彼から資金回収などできないのだから。

 

いまわれわれは恐ろしくレバレッジが効いたキャリーバブルの真っ只中にいるわけだが、キャリークラッシュは必ず訪れる。巻き上げたレバレッジが巻き戻されて、プレーヤーたちには最終的にはマージンコール、つまり追証がかかる。

キャリークラッシュのときは、何が起きるのか?

キャリークラッシュのときは、何が起きるのか。

 

まず現金のニーズが高まる。追証を乗り切るためには現金が必要だからである。現金の価値が高まるということは、つまり〝デフレ〟が起きるわけだ。したがって、キャリートレードが破綻した世界では実質的にはインフレになりにくい。バブルが起きているときだけ資産インフレが起きるが、全般的には景気は良くならない。

 

また、米中経済のデカップリング(二国間の経済や市場が連動しないこと)は継続的な物価高をつくる可能性もある。そのような場合、物価が高いのに景気が悪いという最悪な事態に陥ってしまう。それをスタグフレーションという。

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本連載は、エミン・ユルマズ氏の著書『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)から一部を抜粋し、再構成したものです。

エブリシング・バブルの崩壊

エブリシング・バブルの崩壊

エミン・ユルマズ

集英社

不安定な社会情勢のなかで、日本の投資家はどのように資産防衛・運用を行えばよいのでしょうか。今後の世界経済に大きな影響を与えるであろう「エブリシング・バブル」と呼ばれる米国発のバブルと、その周辺事情について解説。

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