「私には背負いきれない」…亡き夫が託した〈北関東の不動産〉70代妻、苦渋の決断で回避した老後破産 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫に先立たれたシニア女性は、病院のベッドで夫から聞かされた「あの家を頼む」という言葉に悩んでいました。住むこともない、過疎地の夫の実家を託され困惑する一方、夫の気持ちに応えなければという思いもあり、着地が探せません。どうやって解決すればいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

リタイアを楽しみにしていた夫、病気発覚で急逝

今回の相談者は、70代の専業主婦の山本さんです。3カ月前に亡くなった夫の相続の件で相談があると、筆者の事務所を訪れました。

 

夫は定年退職後も嘱託社員として働き、60代後半まで勤務していました。ところが、完全なリタイアが決まった矢先に深刻な病気が発覚し、すぐに入院・手術をしたものの、治療の甲斐なく亡くなってしまったそうです。

 

「夫の財産は、都内の自宅マンションと預金のほか、生まれ故郷の北関東に、実家、貸家、空き地などの不動産を保有しています。夫は大学時代から実家を離れていましたが、故郷への思い入れがとても強く〈リタイアしたら、東京の家財を処分して実家に帰る〉と口にしていました」

 

北関東の夫の実家には先祖代々の仏壇があり、お盆やお正月になると、夫婦で帰郷していました。

 

「夫は、病院のベッドで私の手を握り締めて〈頼む、あの家をみんなで守ってくれ〉と言い残していったのです」

 

山本さん夫婦には二人の息子がいますが、いずれも結婚して家を出ており、それぞれ世田谷区と大田区に自宅を購入しています。

 

「私は東京の生まれですし、北関東の夫の家に思い入れがあるわけではありません。息子たちは家庭を築いて家も買っていますし…。夫の思いに、一体どうやってこたえればいいのでしょうか?」

配偶者控除の特例で「相続税」の問題は解決したが…

筆者と提携先の税理士が調査したところ、山本さんの夫の財産は、相続税の基礎控除となる4800万円を上回ることがわかりました。

 

しかし、配偶者には「1億6000万円まで無税」という配偶者控除の特例があります。その特例を生かして山本さんが全財産を相続すれば、相続税はかかりません。

 

税理士からそのようにアドバイスされた山本さんは、「息子たちと相談します」といって、とりあえず問題を持ち帰りましたが、その後すぐ、電話で「私がすべて相続することになりました」という報告がありました。

活用できない不動産、保有するだけではお金の無駄に

相続税については解決しましたが、残るは亡夫の実家の不動産の問題です。

 

山本さんは、夫が言い残した「頼む…」という言葉が忘れられず、自分の代だけでも維持したほうがいいのだろうかと迷い、ひどく悩んでいる様子でした。

 

税理士はそんな山本さんに、

 

「ご自宅から遠く、山本さんや息子さんたちが行く機会もほとんどなく、すでに自宅をお持ちの皆さんが将来暮らす可能性もないわけですよね?」

 

「維持するにしても、固定資産税やメンテナンス費用が必要です。このまま残したところで、息子さんたち、お孫さんたちの負担になることは目に見えているのではないですか?」

 

と、たたみかけました。筆者も、

 

「活用できない不動産は価値を生まないですし、持ち主の負担になるばかりですよ。空き家や空き地では、固定資産税がかかるだけの存在になってしまいます。そんな状況にしておくより、速やかに売却したほうが妥当ではありませんか?」

 

と、アドバイスしました。

夫の言葉を気にするも、息子の後押しで売却を決意

その後、山本さんから連絡がありました。子どもたちからも後押しされ、夫の故郷の実家や土地などは、夫の一周忌をすませたら、すべて売却することにしたとのことでした。

 

筆者は、山本さんの決断を聞いて安堵しました。思い入れがあっても、住むこともできず、利益を生み出すこともない不動産なら、自分はもちろん、次の世代の負担にならないよう処分する決断も必要です。実際のところ、土地持ちの方のなかには、承継した資産を守ることだけを目的に、何も得られない土地に延々と固定資産税を払い続けるといった方も少なくありません。しかしこの時代、それはあまりにもナンセンスな行為だといわざるを得ません。

 

それなら不要な不動産を処分して身軽になり、売却代金と支払う予定だった納税資金を別のことに活用したほうが、ずっと建設的なのです。

 

過疎が進む亡夫の故郷で、すぐに買い手が見つかるかどうかという課題はありますが、山本さんは電話の向こうで「価格にこだわらず、速やかに処分していきたいと思います」と明るく答えてくれました。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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    株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 
    相続対策専門士

    京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。

    著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。

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    「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

    著者紹介

    連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例

    本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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