(※写真はイメージです/PIXTA)

ある70代の女性は、夫に先立たれた子のない姉を亡くしたことで、葬儀や相続の手続きに奔走することになりました。高齢の身に負担は大きいとはいえ、スムーズな着地を想定していましたが、途中、とんでもない事実が発覚し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

子どものない姉の死去、対応に追われる妹

今回の相談者は、70代の吉田さんです。80代の姉が急に亡くなったため、諸々の手続きについて相談に乗ってほしいと、筆者のもとに電話があり、その後すぐ事務所で打ち合わせを行うことになりました。

 

吉田さんの姉は結婚していましたが、子どもがなく、ずっと夫婦2人で生活してきたといいます。しかし、一昨年に夫を亡くし、その後はひとり暮らしだったとのことでした。

 

「私たち姉妹の母親ですが、私が3歳のときに亡くなりました。そのため、姉と私は母方の祖父母に育てられたのです」

 

吉田さん姉妹の父親は、母親と死別後ほどなく再婚。そのため、2人の娘を母方の祖父母に託したとのことです。

姉の遺産は自宅不動産と預貯金、合計3000万円

筆者と提携先の司法書士は、吉田さんに簡単な親族関係について情報をもらったあと、早速葬儀関係と相続手続きのお手伝いをすることになりました。

 

私たちも、姉には夫も子どももいないという話から、妹の吉田さんが葬儀を出し、相続の手続きをすればよいと考えました。

 

「姉はとても元気な人でしたので、相続の話なんてしたこともありませんでした。遺言書も残していません」

 

葬儀はごく身近な親族だけで滞りなく終わり、そこから数日後、姉の財産の確認を行いました。財産の内容は、夫から相続した自宅不動産と預金で、合わせて3000万円程度となり、相続税の申告は必要ない金額です。

戸籍をたどり発覚した「異母きょうだいの存在」

相続手続きのためには、亡くなった方の誕生から、亡くなるまでの戸籍を途切れることなく取得して、相続人を確認する作業が必要です。

 

すると、吉田さんの父親は再婚後に3人の子をもうけていることがわかりました。吉田さん姉妹に「異母きょうだい」がいることが判明したのです。

 

司法書士とともにこの事実を伝えたところ、吉田さんは、父親が再婚したことは知っていたけれども、その後会うこともなく、異母きょうだいの存在は知らなかったと大変驚いていました。

かたくなな拒絶に、司法書士も疲弊

吉田さんの姉は遺言書を残していないため、相続手続きにはきょうだい全員で遺産分割協議をする必要があります。会ったこともない、存在すら知らなったきょうだいですが、「戸籍上のきょうだい」として姉の相続人になるのです。

 

異母きょうだいの住所を確認した司法書士は、まず郵便で相続人となっていることを伝え、遺産分割協議への協力を依頼しました。ところが、3人の反応は「関わりたくない」というあまりにもそっけないものでした。相続手続きのためには、遺産分割協議に実印を押印し、印鑑証明書を添付する必要があるのですが、協力する気はないというのです。

 

父親が同じとはいえ、会ったこともなく吉田さんに対し「きょうだい」という感情はないのでしょう。

 

筆者もこれまで類似の案件を扱ったことがありますが、まさに「取り付く島もない」という状況は初めてでした。

家庭裁判所の調停へ

もし姉がこうした状況を知っていて「吉田さんに全財産を相続させる」という遺言書を作っていたら、きょうだいは遺留分請求ができないため、問題なく相続手続きができたのです。ましてや、見も知らない相手から「関わりたくない」などと感情をぶつけられることもなかったのですが、姉妹とも事情を知らなかったわけですから、致し方ありません。

 

しかし、このままにしていても、相続手続きができません。そのため、吉田さんには弁護士相談をお勧めし、家庭裁判所の調停の申し立てをするよう提案しました。

 

家庭裁判所の調停により、遺産分割協議の合意が得られることが望ましいのですが、先方が参加しないなど不調に終わることも想定されます。その先は審判となり、家庭裁判所が分割の決定をすることになります。

 

手続きはこれからスタートするところですが、吉田さんは「早く終えて落ち着きたいです…」と肩を落としました。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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