多額の相続税の支払いのため、借り入れを…
今回の相談者は、60代会社員の高橋さんです。兼業農家だった実家の土地を相続して10年、困った事態になっているとのことで、筆者のもとへ相談に訪れました。
高橋さんの父親は兼業農家で、かなりの土地持ちでした。父親は15年前に亡くなり、母親は10年前に亡くなっています。
「父の相続のときは、相続対策として建築した賃貸マンション2棟の借り入れと、母の配偶者の特例の活用で、相続税はかかりませんでした。そのときの税理士さんには、〈二次相続が大変ですよ〉といわれていたのですが…」
税理士からのアドバイスがあったにもかかわらず、高橋さんの母親は何も対策を取らないまま、その5年後に亡くなってしまったそうです。
「母親が亡くなったときには、私と妹の2人が相続人でした。妹は母親名義の土地に家を建てていたので、その土地と現金を相続し、私が自宅、賃貸マンションと建設費用の借り入れの残り、畑、空き地を相続しました」
母親の相続のとき、妹の納税額は約2000万円でしたが、現金も相続していたため、大きな心配はありませんでした。
一方の高橋さんの相続税額は1億2000万円にものぼり、手持ちの現金ではとても払えません。農地は納税猶予を受けることにしても、1億円の納税が必要でした。
「申告を担当してくれた税理士の先生と相談しまして、畑や空き地の3カ所を担保に、銀行で納税資金の借入をしたのです。賃貸マンション2棟の返済が月額150万円、相続税の返済が月額70万円、合わせて毎月220万円を銀行に返済する生活となりました…」
それから10年。
「マンションの家賃が入るので返済はなんとか大丈夫ですが、資金繰りに追われるばかりで、お金がどんどん消えていきます…。やってもやっても終わらなくて、まるで回し車を回すハツカネズミみたいな気分です。どうにかできないものでしょうか?」
相続税の担保となった土地は、雑木林のまま
高橋さん所有の不動産を確認したところ、相続税のための担保となっている土地は、住宅が建築できる土地でした。面積はそれぞれ300坪、400坪、500坪と大きく、地目は「山林」となっています。実際該当の土地には低木が植えられ、雑木林のようになっています。
「親から相続した土地なので守っていくのが長男の役目だと思い、維持してきたのですが…」
高橋さんは、将来の利用計画もとくにないといいます。相談を受けた時点で、返済の元利金はすでに相続税を上回っています。
筆者の事務所の提携先の税理士から「収入のない空き地を持ち続けるメリットはありませんね…」とアドバイスされた高橋さんは、がっくりと肩を落としていました。
もし母親の相続のときに相談に乗っていれば、そのときに売却して納税する提案ができたのにと、われわれも非常に残念な思いでした。
赤字になっても、速やかな売却・清算がお勧め
税金がかかるだけでなにも生み出さない3カ所の土地ですが、最寄駅からはバスが必要な立地であり、賃貸マンションには不向きです。そのため、建売用地として不動産会社に売却するのが選択肢となります。
このような広い土地の場合、宅地造成して区画割をすると、道路の確保や敷地延長の区画が発生するなどして宅地の有効面積が減り、評価も6割程度に下がる可能性があります。
それにより、相続評評価額以下でしか売却できないケースもありますが、それでも、次の相続まで持ち続けていては、少子高齢化のいま、さらなる路線価の下落や、建売住宅の需要の減少といった不安もあるのです。
高橋さんは、税理士の説明に真剣に耳を傾けたあと、3カ所すべての売却と借入返済を決断しました。
いくら両親から受け継いだ思い入れのある土地でも、利用計画のない空き地を保有していては、納税などの負担がかかるばかりで、なにもメリットがありません。それなら思い切って売却を考えたほうがいいといえます。
賃貸住宅などで家賃が入る不動産は維持する価値がありますが、利用しない土地は売却、資産組替を検討しましょう。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。