(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年12月20日、日銀が10年債利回りの許容上限を0.25%から0.5%に拡大したことで、日本国債の市場金利は急上昇しました。それにより、住宅ローン金利も上昇するなど、金利動向に注目が集まっています。これらの現象が起こった背景・メカニズムについて、経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

「短期金利と長期金利」「固定金利と変動金利」

資金の貸借には「長期」と「短期」があります。1年以内に返済するのであれば短期ですし、それより後に返済するのであれば長期です。貸借の期間はさまざまですが、本稿では短期は1年、長期は10年としましょう。10年借りる場合には、途中で何回か金利を支払うのが普通なので、ここでは1年ごとに1年分の金利を支払うことにしましょう。

 

銀行が取引先に貸す場合には、市場金利(銀行間で取引される時の金利)に銀行の利益等々を上乗せするので、話が複雑になります。そこで本稿では「市場金利」について論じることにします。

 

短期の貸し借りの金利は、借りるときに決めるのが普通です。長期に借りる場合の金利は、「今後10年間の金利を、借りるときに決めてしまう」場合と、「最初の1年間は借りたときの短期金利を使って支払い金利を計算する。次からも、1年ごとに短期金利を使って今後1年分の支払い金利を計算する」という方法があります。

 

前者を「固定金利」、後者を「変動金利」と呼びます。固定金利のことを「長期金利」と呼ぶ場合もあります。後者の場合、短期金利で1年借りて、返済期日に再び短期金利で1年借りるという作業を10回繰り返すのと同じことになりますが、毎回契約したり資金を返済したり借りたりする手間はかからない、というわけです。

長期金利は「短期金利の予想」によって決まる

貸し手も借り手も、長期の貸し借りをすることを考えているとします。そして、世の中の人々が「いまの短期金利は今後10年間変わらない」と予想しているとしましょう。

 

長期金利がいまの短期金利と同じなら、変動金利でも固定金利でも同じになるはずですから、借り手も貸し手も「どちらでも構わない」と考えるでしょう。

 

では、世の中の人が短期金利は上がっていくと考えているとします。具体的には、今後10年間の短期金利の平均がいまの短期金利の2倍になると予想されているとします。長期金利が短期金利の2倍なら、借り手も貸し手も「短期貸借を10回繰り返しても長期貸借しても同じことだから、面倒なので長期貸借にしよう」と考えるはずです。

 

しかし、長期金利が短期金利の2倍より高ければ、借り手は変動金利を選ぶでしょうし、2倍より低ければ、貸し手が変動金利を選ぶでしょうから、固定金利の長期貸借は成立しません。つまり、長期金利は短期金利の2倍に決まるのです。

 

このように、長期金利は人々が予想する将来の短期金利の平均と等しくなるわけです。では、人々の予想が一致していなかったらどうなるでしょうか? なにも問題ありません。

 

ほかの人々より高い短期金利を予想している借り手は、低い短期金利を予想している貸し手から固定金利で借りるでしょう。低い短期金利を予想している借り手は、高い短期金利を予想している貸し手から変動金利で借りるでしょう。同じときに長期金利の取引と変動金利の取引(あるいは短期貸借の繰り返し)がどちらもおこなわれる、というだけのことです。

予想短期金利より、長期金利が「少し高い」ワケ

以上が基本ですが、実際には、長期金利は予想短期金利より少し高くなります。それは、貸し手が「もう貸さない」という選択肢を失ってしまうことの対価が必要だからです。

 

貸し手としては、借り手が途中で倒産しそうになったり、自ら資金が必要になったりする可能性を考えて、「もう貸さない」という選択肢をキープしておきたいのですが、固定金利で貸してしまうと、その権利を放棄する事になります。そこで、「予想短期金利と同じなら、短期貸借を繰り返す。予想短期金利より高いなら、権利を放棄してでも高い金利を得るために固定金利で契約する」というわけですね。

 

借り手が銀行ではなく政府である場合には、倒産する可能性は小さいですが、ゼロではありません。また、銀行は借用証書の代わりに国債を持つことになりますから、資金が必要になれば売却することができますが、売却するときに安くしか売れない可能性がありますから、やはり「もう貸さない」という選択肢に意味があるわけです。

需給のゆがみが、理屈を超えた現象を起こす場合も

もっとも最近では、銀行間で資金を貸し借りすることは多くありません。政府の借金があまりに巨額なので、すべての銀行が政府に貸している(長期金利の国債を保有している)のです。

 

そこで、長期金利で貸したい銀行は国債を追加で購入すればよく、長期金利で借りたい銀行は持っている国債を売却(長期金利で貸している資金を回収)すればいい、ということになるからです。

 

そうしたなかで、最近の日本では奇妙なことが起こっています。理屈としては、政府が大量の長期国債を発行している(長期資金を借りている)ので、銀行が貸したい金額を上回り、長期金利が上がっても(人々が予想する短期金利の平均を上回っても)おかしくないのに、実際には下がっているのです。

 

日銀があまりに大量の長期国債を買っている(長期金利の貸出をしている)ので、世の中の長期金利が人々の予想短期金利の平均よりも低くなっているからです。正確に言えば、日銀が長期金利を人々の予想短期金利より低い水準にまで押し下げているのです。

 

そこで日銀が「今後は、いままでほど頑張って長期金利を押し下げるのをやめる」と発言しただけで長期金利が跳ね上がることになるのです。昨年末に起きたのは、そうした現象だったのですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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