(※撮影= Genza_Design/PIXTA)

阪神淡路大震災の犠牲者のうち、死因の約8割を占めたのが、建物の倒壊による窒息死または圧死です。このことから、大地震で命を失わないためには、「住宅の倒壊を防ぐこと」が最低かつ必須条件といえます。本稿では、住宅の倒壊を防ぐための三つの工法、「耐震」「制震」「免震」について見ていきましょう。建築物等の構造物設計・解析を専門とする谷山惠一氏が「免震工法」を推奨する理由とは?

制震工法とは?

制震工法は、建物に伝わる地震エネルギーを、内部の壁に設置した制震ダンパーによって吸収し、地震時の揺れを低減しようとする工法です(図表2)。

 

[図表2]制震工法のメカニズム

 

耐震工法と同様に地震動は家の中に伝わりますが、ダンパーがそれを吸収するので、耐震よりは揺れを小さくすることができます。

 

2000年代以降に大地震が多発したことや、免震よりは安価(1棟あたり100万円程度)に施工できることなどから、大手ハウスメーカーを中心に普及してきました。なかには標準仕様としているメーカーもあります。

 

とはいえ、建物の基礎は、耐震と同じように建物と緊結されているので1階部分の揺れはほとんど低減できません。効果が体感できるのは、多くの場合で2階以上の階です。

 

その効果も免震ほどではありません。震度7クラスの地震が発生すれば多少建物の損傷は低減できるものの、やはり室内は鳥カゴに近い状態となり、通常と同じ生活を続けることは難しいはずです。

免震工法とは?

さまざまな形状、重さのモノをテーブルの上に置き、軽く揺するとします。すると大きく揺れるモノとあまり揺れないモノに分かれます。

 

これは、テーブルを揺らしたときに揺れが一往復するまでに要した時間=振動特性とその上にあったモノの固有値が同じだと共振して揺れるからです。

 

固有値とは、各々のモノが固有にもつ周期で、形状や重量によって異なります。例えば、0.7秒の振動特性でテーブルを揺らすと0.7秒の固有値をもつ物体は揺れます。2.0秒や3.0秒の固有値の物体は揺れません。

 

免震工法はこの原理を利用するものです。これまでの調査から、地震では0.4〜1.5秒の固有値をもつ物体が大きく揺れることが分かっています。すなわち、固有値が3.0〜4.0の家にすれば震度7の地震が起きても理論上は共振しないのです。

 

免震工法は、一般的に基礎と土台の間に薄いゴム板と鋼板を交互に重ねて接着した積層ゴムなどを入れて建物を長周期化し、地震の振動を建物に伝わりづらくします。

 

この工法は、支持機能、減衰機能、復元機能の3つで成り立っています。普段はアイソレータと呼ばれる積層ゴムなどで建物を支え(支持)、地震発生時は建物の重さを支持しながら建物が移動できるようにします(実際は地面が動く)。そしてダンパー(オイルダンパー、鋼材ダンパーなど)で地震の揺れを低減(減衰)させ、揺れが収まれば復元材が家を元の位置に戻します(復元)。

 

このような構造で建物が基礎の上を滑るような状態にして、地震の力が伝わらないようにしているのです。

 

免震工法の家は、そもそも基礎と建物が絶縁されているので、大きな地震が起きても震動が伝わらず、建物自体の損傷だけでなく、中のモノへの影響も最小限にとどめておくことができます。また、絶縁されているがゆえに、大きな地震が複数回起きても耐震や制震のようにダメージが累積することもありません。

 

「免震」の話をすると、ほとんどの方から「上下動に対してはどうなのか」という質問を受けます。

 

構造物に対して、左右にいっさいぶれない純粋な上下の力が加わったとき、構造物はじつは破壊しにくいのです。その理由を見ていきます。

 

構造物の設計に際しては、その構造物に作用する力(応力)に対して限度を示す「許容値」が基準等で規定されています。その許容値には、実際に破壊に至る値に対して、必ず「安全率」を考慮し低減させています。例えば橋梁の場合は、鋼材には70%の安全率を考慮しています。つまり、実際に破壊に至る値に対して、70%の余裕を持って設計上の上限としているのです。

 

そのうえで上下動について考えてみます。上下動は正に重力方向の振動です。地球上では常に重力1Gが作用していますので、私たち設計者は1Gの重力を考慮して設計しています。これに先ほどの安全率をふまえると、1.7Gまで持ちこたえることになりますが、実際の地震動でこの値を超える上下動は非常に稀です。上下動が大きかったといわれる阪神・淡路大地震でも0・3G強でした。つまり、まったく左右にぶれない状況で上下動が作用した場合は、構造物は破壊しにくいのです。

 

しかし、実際の地震動は上下のほか、それよりも大きな前後左右の揺れが作用します。実際に構造物が破壊する時は前後左右に揺れ、構造物にゆがみ(変形)が生じたときに上下の力が加わり破壊するのです。したがって、前後左右の揺れによる変形をいかに抑えるかが重要となります。

 

私も以前LNGタンクの耐震設計で、鉛直方向の免震工法を検討したことがありますが、実際は重力方向の免震はほぼ不可能と考えています。そのため免震工法は、現在考えられる工法のなかでは、「最大の安全」「最高の安心」「最良の減災」を実現するものだといえます。

まとめ:耐震・制震・免震の違い(図表3)

耐震・制震・免震工法の特徴をまとめたものが上の表(図表3)になります。この表を見れば分かるように、すべての危険性を低減できるのは免震工法のみとなります。

 

[図表3]耐震・制震・免震の違い

 

 

谷山 惠一

株式会社ビーテクノシステム 代表取締役社長、技術士

 

日本大学理工学部交通工学科卒業後に石川島播磨重工業(現:株式会社IHI)入社。橋梁設計部配属。海外プロジェクト担当としてトルコ・イスタンブールの第1ボスポラス橋検査工事、第2ボスポラス橋建設工事等に参画。第1ボスポラス橋検査工事においては、弱冠28歳でプロジェクトマネジャーとして従事し、客先の高評価を得る。

その後、設計会社を設立し、海外での橋梁建設プロジェクトに参画。当時韓国最大の橋梁であった釜山の広安大橋建設工事などに、プロジェクトマネジャーとして従事。橋梁、建築物等の構造物設計・解析を専門とする。元日本大学生産工学部非常勤講師。剣道五段。

※本連載は、谷山惠一氏の著書『もう地震は怖くない! 「免震住宅」という選択』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧