(※写真はイメージです/PIXTA)

30年以内に首都直下地震が起こる確率は70%、さらに東海地震は88%。ただし、当然ながら覚悟をしなければならない地震はこの二つだけではありません。国内において「揺れない安全地帯」はないに等しく、大地震はいつどこで起こってもおかしくないのです。地震から生命や財産を守るには、どうすればよいのでしょうか? 対震構造の開発・普及に努める谷山惠一氏が、「減災」への取り組みの重要性を解説します。

「地震の予知」は実質不可能

大震災に対してなぜ事前の対策が重要なのか。その大きな理由の一つは、地震予知の難しさにあります。

 

東日本大震災は、多くの専門家が想定していなかったマグニチュード9.0の巨大地震でした。そして強い揺れや津波などによって、自然災害の損失額としては史上最も大きな災禍となったのです。

 

この状況を受けて内閣府の調査部会は2013年5月、南海トラフの地震に対して「現在の科学的知見からは確度の高い予知は難しい」と結論づけました。実用的な地震予知は不可能と発表したのです。

 

そして文部科学省は、大学や研究機関が進める「地震予知のための研究計画」の看板を下ろしました。

 

また、気象庁は1976年以来、東海地方を中心に世界最高レベルの観測網を整備してきました。岩盤の伸縮を観測するための合計40ヵ所の「ひずみ計」のうち、27ヵ所を東海地震予知のために設置していたのです。それを今後は広げない計画だといいます。

 

我々は今まで国が発表する地震予知の確率に右往左往する傾向がありました。しかし、調査部会の発表以降は、その数字がそれほど当てにならないことが知られるようになりました。

「大地震にはつながらない」イタリアで“予知”した結果

地震には、「プレート境界型地震」と「活断層型地震」があります。このうち活断層型地震は、断層自体が約2000ヵ所と多いうえに、数千年から数万年ごとに発生するため前回の地震の手掛かりが非常につかみづらく、予知はほぼ不可能とされています。

 

一方プレート境界型地震は、数十年から数百年ごとに発生しているので、活断層型地震よりは予知しやすいといわれていますが、それでも不正確なことには変わりありません。

 

地震の予知は、ひずみ計のほか、高感度地震計、人工衛星による全地球測位システム(GPS)などによるデータをもとに行われます。

 

ところがこのような最新設備をもってしても地震の前触れとなる地下の動きがとらえられなかったり、動きが急過ぎて観測が間に合わなかったりする場合も少なからずあるようです。

 

また、予知に必要な過去の観測データは、約100年分しかありません。それ以前の記録は古文書を調べたり、沿岸部の津波の跡を観察したりすることなどで収集していますが、それだけでは十分、かつ正確なデータとはいえません。

 

それでもイタリアでは予知を信用してしまい、このようなことが起きました。

 

同国では、2009年に大地震が発生しましたが、その数ヵ月前から小さな地震が続いていたそうです。ところが、ある委員会の科学者ら7人はそれが大地震にはつながらないと発表し、結果的に300人以上が犠牲になりました。この7人には、2012年に有罪判決が下りました。

「地震の予知」から「減災」へ

以上のようなことから地震の予知は非常に困難、かつ、その数値などを100%信じてしまうのはたいへん危険です。そこで昨今は、「予知」ではなく「減災」の動きが活発化しています。

 

減災とは、「災害が起こったらどうするか」ではなく、「起こる前にやるべきこと」を考え、震災などによる被害、特に死傷者をできるだけ少なくするよう十分に対策を立てておくことです。

 

この考えはすでに各自治体に広がっています。特に積極的な広がりを見せているのが、東海地震発生時に最も大きな被害が予想される静岡県です。

 

静岡県は近い将来に東海地震が必ず起こるということを前提とし、以前から大地震への取り組みを積極的に行ってきました。地震予知を想定した防災訓練もその一つです。

 

しかし、予知を想定した訓練を行ったのは、東日本大震災(2011年)以降は2014年に一度だけ。それ以外は減災をテーマに、突然の地震で県内の広い範囲を震度7の揺れが襲い、大津波が押し寄せるといった設定で訓練を行っています。

 

県の担当者は「『想定外を想定せよ』という防災対策が今は重要。予知だけに頼ることはできない」と話しています。

 

そして2013年6月、静岡県は「地震・津波対策アクションプログラム2013」を策定しました。これには「想定される犠牲者を今後10年間で8割減少させることを目指す」という減災目標も設定されています。

 

さらにその達成のために189のアクションを盛り込み、アクションごとに具体的な取り組みと達成すべき数値目標、達成時期も定めているという力の入れようです。

 

静岡県を含む東海地震の想定震源域では、異常な地殻変動が観測されて気象庁や地震学者などの判定会が大地震の前に起きる「前兆地すべり」と判断した場合、首相が警戒宣言を発令することになっていました。

 

これは1978年施行の大規模地震対策特別措置法によるもので、国は8都県157市町村を対策強化地域に指定し、宣言が発せられると交通や商業活動が規制され、自治体は津波の危険がある地域の住民などを避難させます。

 

この宣言は、地震発生の数日前から数時間前に前兆を検知できることが前提となっていました。しかし、それが不可能とされたことで2017年9月から運用は凍結されています。

「減災への取り組み」があなたを守る

これからの地震対策は、予知した地震に対して行動することが前提ではなく、大地震はいつでもどこでも突然発生することを大前提に、「そのときいかに被害を減らせるか」という減災への取り組みを整えておかなくてはなりません。それが我々の財産、そして命も守ることにつながります。

 

 

谷山 惠一

株式会社ビーテクノシステム 代表取締役社長、技術士

 

日本大学理工学部交通工学科卒業後に石川島播磨重工業(現:株式会社IHI)入社。橋梁設計部配属。海外プロジェクト担当としてトルコ・イスタンブールの第1ボスポラス橋検査工事、第2ボスポラス橋建設工事等に参画。第1ボスポラス橋検査工事においては、弱冠28歳でプロジェクトマネジャーとして従事し、客先の高評価を得る。

その後、設計会社を設立し、海外での橋梁建設プロジェクトに参画。当時韓国最大の橋梁であった釜山の広安大橋建設工事などに、プロジェクトマネジャーとして従事。橋梁、建築物等の構造物設計・解析を専門とする。現在は橋梁設計のほか、独自の技術で一般住宅向け免震化工法「Noah System」を開発し、普及に努めている。元日本大学生産工学部非常勤講師。剣道五段。

※本連載は、谷山惠一氏の著書『もう地震は怖くない!「免震住宅」という選択』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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