(※写真はイメージです/PIXTA)

阪神淡路大震災で得た教訓。それは、大地震で命を失わないためには、「住宅の倒壊を防ぐこと」が最低かつ必須条件だということです。倒壊を防ぐための工法は複数ありますが、建築物等の構造物設計・解析を専門とする谷山惠一氏は「免震工法」を推奨し、住宅の免震化に取り組んでいます。なぜ、免震工法が住宅の地震対策として有効といえるのか。その理由を見ていきましょう。

大地震で避難するには「ケガをしていないこと」が第一

前回の記事では、住宅の倒壊を防ぐための工法として、「耐震」「制震」「免震」について解説しました。

 

耐震・制震・免震工法の特徴をまとめたものが図表1になります。この表を見れば分かるように、すべての危険性を低減できるのは免震工法のみとなります。

 

[図表1]耐震・制震・免震の違い

 

耐震・制震の家は、基礎と建物の土台がアンカーボルトで固定されています。そして、地震が発生すると基礎は地面と一緒に動き、基礎に固定されている土台=家も同時に動くことになります。そのため、たとえ建物は倒壊しなくても、中の家具や家電は地震の強さに比例して揺らされてしまいます。その結果、中にいる人間はそれらの下敷きや衝突による被害を受ける可能性が高くなります。

 

リビングにいるときに大地震が発生すれば、液晶テレビが飛んできたり、本棚が倒れてきます。なかには「自分ならそんなの避けられる」と思う人もいるかもしれませんが、実際には立ち上がる前に飛んでくることが多いようです。

 

キッチンで料理をしているときであれば、熱湯が入ったヤカンや天ぷらを揚げる油が入った鍋が落下することもあります。そうなれば火傷をする危険も生じます。食器棚が倒れれば、中のモノが飛び出して割れ、床に散乱します。焦って避難しようとする際にそれらを踏みつけて足の裏を切ってしまうかもしれません。

 

お風呂に入っているときであれば、裸に近い状態で避難しなければならない場合も考えられます。その状態で家中にモノが散乱していれば、さらに危険度が増すはずです。

住宅の地震対策は「倒壊を防ぐだけ」では不十分

家は倒壊しなくても、中身が使い物にならなければ避難せざるを得ません。

 

筑波大学の糸井川栄一教授が東日本大震災直後に行った調査によると、マンションの住民は、建物が頑丈ゆえに避難する必要がないと思われがちですが、実際は家具の転倒やインフラの停止などによって31%が避難生活を送っていました。

 

また熊本地震では、家の中にいることが不安なために車で避難生活を送る人が続出し、そのストレスなどから死亡する例が多発しました。

 

このようなことから、大地震が発生しても家具などが倒れずに今までと同じ生活が続けられる家に住んでいることが重要だということが分かります。

 

しかしながら、家の内外装に影響がなくても、ガスや水道などのインフラが停止したために避難を余儀なくされるケースもあるはずです。

 

避難しなければならない場合は、当然ながら移動を伴います。移動するにはケガをしていないことも必要です。

 

また仮に避難する際に、火災や大津波が迫っていたとします。そしてあなたの目の前で配偶者や子どもなど大切な人が倒れた家具の下敷きになって身動きがとれなくなってしまいました。

 

「助けたい。でも自分の身にも危険が迫っている」

 

このような最悪の事態を避けるためには、やはり建物が倒壊しないだけでなく、被災後もすぐに避難できるように家具や家電が倒れないことが重要です。

 

これを実現できる工法は、今のところ免震しかありません。大地震が発生しても家具は倒れず、食器は飛ばない。そして建物は変形することなく、多少の横揺れを続けても、やがて揺れが収まれば、今までと同じ日常がすぐにスタートできる。仮に避難生活を余儀なくされても、地震発生前と同じ健康な身体で行動することができる。それが免震工法なのです。まさに「免震」こそ、地震の被害を最小限にする最良の方法といえます。

次ページ実は、昔の日本の建築物はすべて「免震工法」だった

※本連載は、谷山惠一氏の著書『もう地震は怖くない!「免震住宅」という選択』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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