地震大国・日本の技術…「国立西洋美術館」が「3・11クラスの大地震」でも“美術品を守れる”という根拠

地震大国・日本の技術…「国立西洋美術館」が「3・11クラスの大地震」でも“美術品を守れる”という根拠
(※写真はイメージです/PIXTA)

大地震から命を守る上で、建物の安全性は欠かせません。倒壊を防ぐための工法としては「耐震」や「制震」がありますが、最も倒壊を避けたい首相官邸や、役所の庁舎や病院といった全国各地の重要なインフラ施設が採用しているのが「免震」です。本稿では、国土交通省(当時の建設省)が初めて採用して以来、重要建築物を中心に施工されている「免震レトロフィット」について見ていきましょう。免震化の普及に取り組む谷山惠一氏が解説します。

免震は「既存の建築物」の地震対策にも有効

前回の記事でみたように、免震構造は最新施設を守るための装備として次々に採用されています。一方で、古くから存在する既存の建築物に対しても効果を発揮することが可能です。

 

日本には歴史的、文化的に残していきたい建築物が数多く存在しています。それらの保存にも免震化は非常に有効なのです。

 

既存の建築物を免震化する代表的な方法に、「免震レトロフィット」という工法があります。

 

歴史的・文化的に価値がある建築物は、地震時の損傷を防ぐだけでなく、価値ある内外装の意匠や収蔵されている美術品なども同時に守る必要があります。ところが一般的な耐震改修工事では、耐震壁を追加したり、柱や梁を太くするので、これらを守ることができません。

 

免震レトロフィットは、建築物のデザインや機能を損なうことなく免震機能を発揮する工法です。具体的には、既存の建築物を一時的に持ち上げて基礎などに免震装置を設置し、建物と地面の「縁」を切って地震エネルギーを吸収します。

 

この改修方法ならば、上部の軀体にほとんど手を加える必要がありません。そのため、内外装の意匠や収蔵されている美術品に影響を与えることはなく、さらに、展示施設や公共施設などの業務を一時停止することもなく施工することが可能です。

 

また、免震レトロフィットは、幅広い建築物に対応可能です。例えば、伝統構法の日本家屋にも、西欧風建築物にも、旧基準で建てられたビルにも、現在も多くの人が集まる公共施設でも施工可能です。

 

その特徴をまとめると4点あります。

 

●建築物の内外装を変化させることなく免震化が実現できる

●人が出入り可能な状態で施工できる

●収蔵する美術品などを地震から守ることができる

●施工後は防災拠点として利用できる

 

この免震レトロフィットを使用した建築物は、実は意外に身近にあります。

次ページ免震レトロフィットの施工例

※本連載は、谷山惠一氏の著書『もう地震は怖くない!「免震住宅」という選択』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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