(※画像はイメージです/PIXTA)

本日(2023年2月2日)、政府は、現行の児童手当の制度において設けられている「所得制限」の制度を撤廃する方向で調整に入りました。与党・自民党は、野党であった2010年当時、民主党政権が導入した所得制限のない「子ども手当」の制度を厳しく非難した経緯があり、事実上の政策転換といえます。本記事では、改めて、所得制限が抱えている2つの問題点について解説します。

児童手当の所得制限の2つの致命的な問題点

児童手当の所得制限に関しては、以前から、2つの問題点が指摘されてきました。

 

1. 所得制限自体が児童手当の制度趣旨に反している

2. 「世帯主」の所得を基準とするのは不公平・不合理である

 

◆所得制限自体が児童手当の制度趣旨に反している

第一に、所得制限自体が児童手当の制度趣旨に反しているという指摘です。

 

児童手当の趣旨は「子育て支援」です。これは、所得の大小に関係なくすべての世帯に等しくあてはまるものであり、そもそも所得制限になじまないものです。

 

「低所得世帯」と「高額所得世帯」の公平をはかるのであれば、「低所得世帯」のために、児童手当とは別に、学用品等の購入費用に関する「就学援助」等の制度があります。

 

このことを考慮すると、所得制限を超えた世帯を「子育て支援」の対象から除外することは、児童手当の制度趣旨に反し、かつ、法の下の平等(憲法14条)に違反する疑いさえあります。

 

すなわち、「所得の再分配」や「格差解消」「救貧」の問題は、本来、社会保障政策の枠内で解決すべきであるということです。

 

◆「世帯主」の所得を基準とするのは不公平・不合理である

第二に、「世帯主」の所得金額を基準としていることについても、不公平・不合理であるとの指摘があります。

 

子育ては世帯ごとに一体となって行うべきものです。また、子育てをする世帯のうち圧倒的に多いのは「共働きの夫婦と子ども」の世帯です。それなのに、「世帯主」の所得を基準にすることは、古色蒼然とした家父長主義の名残りではないかとの批判があります。

 

その不合理は、「世帯主と配偶者、小学生の子2人」の世帯で、以下の2つの異なるケースを比較すると明らかです。

 

・ケース1:世帯主の年収が1,200万円、配偶者(扶養)の年収が103万円の世帯(世帯年収1,303万円)

・ケース2:世帯主と配偶者の年収が900万円ずつの世帯(世帯年収1,800万円)

 

ケース1については、【図表2】「所得制限限度額736万円・収入額の目安960万円」が適用されます。所得制限を超えており、児童手当を受け取れないばかりか、月5,000円の「特例給付」も対象外です(【図表3】参照)。

 

これに対し、ケース2は、【図表2】の「所得制限限度額698万円・収入額の目安917.8万円」が適用されます。世帯主の年収が900万円なので所得制限内であり、児童手当を2名分(月額合計2万円)受け取ることができます。

 

ケース2の世帯の方がケース1の世帯よりも世帯年収が高いにもかかわらず、ケース1では児童手当を1円も受け取れず、ケース2では2万円を受け取れるという事態が出来しています。

 

これは明らかに不公平です。

 

このように、憲法上の疑義があるうえ内容の合理性も乏しい児童手当の所得制限について、遅きに失したとはいえ、政府が撤廃の方向を打ち出したことは、歓迎すべきことです。

 

しかし、岸田首相が宣言した「異次元の少子化対策」には、なお、労働者が子育てと仕事を無理なく両立できる環境の整備、高騰する学費の負担軽減等、財源確保の問題が山積しており、前途多難といわざるを得ません。

 

政府・与党、あるいは一部の野党も、内部に、旧態依然とした家父長主義的・男尊女卑の気風を根強く残した獅子身中の虫を抱えています。従来の政策の転換にとどまらず、旧態依然とした価値観との決別と、因習や固定観念にとらわれない政策の立案と実行が求められます。

 

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