(画像はイメージです/PIXTA)

財産を親から子どもへ贈与するときの贈与税には、暦年課税と相続時精算課税という2つの贈与税の制度があります。一定の条件がありますが、どちらかを選択して利用します。今回は、「相続時精算課税制度」による贈与税について見ていきましょう。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

「相続時精算課税制度」による贈与とは?

生徒:先生、母が私に自宅建物を生前贈与したいそうです。贈与税がどれくらいかかるか調べてほしいというのですが、贈与税がいくらになるのか、計算方法を教えていただけませんか?

 

[図表1]贈与税の税率

 

先生:自宅を贈与してもらえるなんて、いいですね! 建物だけでいいのですか? それなら、建物の評価額を確かめる必要がありますが、固定資産税課税明細書は確認しましたか?

 

生徒:はい、確認しました。家屋の「価格」のところに、2,500万円だと書いてありました。

 

★相続時精算課税についてはこちらをチェック

相続時精算課税は相続税の前払い。その仕組みをしっかり理解して有利な手続きをしましょう。

 

先生:では、ご自宅の建物の評価額は2,500万円なので、それに対して贈与税がかかります。贈与税には2つの制度があります。「暦年課税」と「相続時精算課税」です。暦年課税でもいいですが、1,000万円以上の税金がかかるから、ちょっと現実的ではありませんね。今回は、相続時精算課税を使うほうがいいと思いますよ。

 

[図表2]暦年課税のイメージ

 

[図表3]相続時精算課税

 

生徒:相続時精算課税とは、どのようなものでしょうか?

 

先生:相続時精算課税とは、60歳以上のお父様・お母様や、お祖父様・お祖母様から、18歳以上の子どもまたはお孫さんへ、贈与したときに、2,500万円を超える部分について、20%の相続税を前払いする制度です。形式的には「贈与税」と呼ばれていますが、実際は相続税の前払いですね。ただし、2024年の税制改正で毎年110万円の基礎控除額が導入されたので、毎年贈与を続けると、たくさんの非課税枠が使えて有利な制度になったんですよ。

 

生徒:「相続税を前払いする」とのことですが、具体的にどうやって計算するのでしょう? 贈与した人が亡くなったとき、相続税を支払いますよね?

 

先生:するどい質問ですね! 相続時精算課税を利用して贈与された財産は、相続した財産にプラスされて、相続税が課されます。ただし、プラスされるときの贈与財産の金額は、相続のときの評価額ではなく、贈与されたときの評価額です。贈与したあとに値上がりするような財産の場合は、早めに贈与しておくほうが有利ですね。

 

生徒:贈与税として前払いした税金は、どうなるんですか?

 

先生:相続時精算課税と呼ぶくらいだから、きちんと精算されますよ。すでに支払った贈与税は、相続税から差し引かれるから心配ありません。

 

[図表4]相続時精算課税の納付イメージ

 

生徒:なるほど! では、相続時精算課税を選ぶときに、どのような手続きが必要となりますか?

 

先生:これは贈与税の制度なので、贈与税の申告が必要です。申告書の提出は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間となっていますから、忘れないようにしましょう。

相続時精算課税制度のメリット

生徒:相続時精算課税で贈与するメリットを教えて下さい。

 

先生:いちばん大きなメリットは、「納税が先送りされる」ということでしょうか。2,500万円までは、贈与税で前払いする必要がないため、それに対する贈与税の資金が、将来の相続時まで先送りされるのは助かるはずです。もうひとつは、2024年から導入された基礎控除ですね。毎年110万円の基礎控除を非課税枠として使えるから、その分だけ節税になります。

 

生徒:その110万円は、将来の相続税の申告のときには課税されるのですか?

 

先生:いいえ。これは贈与財産から110万円ずつ控除されていき、相続税申告のときも相続財産に加算する必要がありません。つまり相続税の非課税枠となりますよ。

 

生徒:なぜ生前に贈与しておいたら、節税になるのでしょう?

 

先生:それは「個人財産が増えてしまう」ことがあるからなんです。例えば、賃貸不動産や金融資産ですね。持っていると家賃や配当金でお金が増えていきますよね。それはそれでいいことですが、本人がお金を使う予定がなければ、将来の相続財産となって相続税を支払うことになります。だから、生前の早めに贈与しておくほうがいいんですよ。

 

生徒:なるほど…。ほかにもメリットはありますか?

 

先生:そうですね…。子どもの生活が豊かになるということもメリットかもしれませんね。子どもやお孫さんなどが住宅を購入するときや、なにか事業を始めるためにたくさんの資金を必要としているときなどに、2,500万円までは贈与税を気にせずに贈与できると助かりますよね。

 

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相続時精算課税制度の「最も留意すべきポイント」

生徒:では逆に、相続時精算課税での贈与にデメリットはありますか?

 

先生:デメリットはありませんが、自宅の敷地を贈与するときには注意が必要です。それは、土地の贈与で相続時精算課税制度を適用してしまうと、相続したとき、土地の評価を80%下げて土地にかかる税金を大幅に減らせる、「小規模宅地等の特例」を使えなくなってしまうことです。今回のお話は、建物を贈与してもらい、お母様もそこに住み続けるということでいいのですよね?

 

生徒:はい、土地は贈与されません。

 

先生:それなら、大丈夫ですね。

 

生徒:わかりました! ありがとうございました!

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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