(※写真はイメージです/PIXTA)

これだけ景気低迷が続いても、「マイホーム」を切望する日本人。もちろん、購入できればどこでもいいというわけではなく、できれば23区内、できれば一戸建…と願う人は多い。だが、必死に探してようやく希望にかなう物件が見つかったとしても、手放しでは喜べないかもしれない。都内の物件を扱う、ある不動産営業担当に話を聞いた。

相続で市場に流れ出た「ワケアリ物件」

景気が低迷して久しい日本だが、人々の「マイホーム所有欲」はいまだ強く、住宅購入を目標に掲げ、実現する人は多い。都内の物件を希望する人たちのうち、高所得者層は高級タワマンに目を向けているが、そこまでの資金力がない層に向け、不動産会社は23区内の宅地開発を進めている。

 

ある不動産会社営業担当は声を潜めて語る。

 

「じつは、土壌汚染のある土地が、土の入れ替えもなく普通に売買されているんです」

 

この件は業者間でもすでに暗黙の了解であるらしく、あえて触れる人たちはいないらしい。

 

「例えば、港区の高級住宅街とされているあるエリアは、かつて準工業地域でした。しかし、そんな過去の事情を知らない人がほとんどで、23区内のほかの地域でも、過去に小さい町工場が建っていたところがマンションや宅地に姿を変えています。マンションの場合は、地下を掘れば土が搬出されますから、土壌汚染の影響はさほど大きくない。一応説明義務はあるものの、汚染された土の除去は可能なわけです。問題は宅地ですよ」

 

不動産会社が、大規模開発やマンション建設しても割に合わないと判断されたエリアは、主に宅地として販売される。だが、そういった土地は、しばしば町工場跡が含まれているという。

 

「23区内でも、不動産会社がマンション建設をしない場所は、戸建用地として販売されます。そういったところは、昭和30年代~40年代ごろ、工場が建設されていた場所がたくさんある。そんな土地がいま、相続によって市場に流れてきているんです」

「書類が残っていない」「時効です」

「売却希望者から〈祖父が金属加工工場を経営していました〉といった話を聞くことは多々あります。我々も売買に当たって重要事項説明書を作る必要がありますから、役所に調査へ行くのですが、そこで〈古すぎて書類がない〉〈時効です〉といわれてしまう」

 

宅地の販売を手掛ける不動産会社の担当者が直面する、頭の痛い問題だ。だが実際、そんな「ワケアリの土地」を説明なしで販売している業者はかなりいるという。

 

「しかしですね、いくら役所が〈書類が残っていないから出せない。時効〉といっても、こっちは土地の所有者から話を聞いてしまっているじゃないですか。聞いた話をなかったことにはできない。そこで…」

 

まず、不動産会社Aが該当の土地を買い取り、不動産会社Bに売却する。AとBは業者間取引なので、重要事項を説明する義務がない。つまり、書類は作るが、口頭での詳細な説明義務は免除される。

 

「〈ここは準工業地域です〉といったオモテの部分は書類に書きますが、聴取した〈昔、金属加工工事をやっていた〉といった情報は、どうなっているのでしょうね…。情報をあえて落としているかどうかは重説を見なければわかりませんので、あくまで推測ですが、準工業地域の宅地が多く市場に出ていること、そして、そのエリアの新築戸建の謄本を見ると〈A社からB社〉に間を置かず転売されているケースが、本当に多い」

 

プロから見ると、そういう推測が成り立つということか。

 

「推測ですが、売買の動きが明らかにおかしい、そして、そういうケースが非常に多いのは事実。自分も宅地を不動産会社に売りに行く立場ですが、〈準工業地域〉〈汚染リスクあり〉と伝えても、購入条件は悪くない。それを考えると、転売先が決まっているのだろうかとか、それだけの利益が出るのかと思ってしまう。汚染の情報を伝えたうえで、〈5,000万円ぐらい〉と予想していたものが〈1億円〉といってもらえたりする。つまり、エンドには〈通常の商品〉として売るわけですよ」

 

昭和30年代~40年代に稼働した工場が、平成初期に廃業し、30年ぐらい放置されたあと、所有者死亡で相続発生となり、売却の流れとなったとき、時間がたちすぎていて、工場で使用された薬品の詳細など、調査できないケースがほとんどだ。不動産会社の調査にも限界があるが、それ以前に役所の書類保存期限が終了しており、「もういいじゃないですか」といわれてしまうという。

 

汚染土壌の上に暮らすとなると健康被害が懸念されるが、不動産会社営業担当の言葉はこうだ。

 

「そっちは素人ですからわかりませんが、なにかしら表面化するのは、おそらく20年後、30年後なのでは。もし仮に体調不良になっても、この状況からは究明しようもないですし」

東京都に環境確保条例ができたのは、平成に入ってから

土地を売却するとき、まず隣家に「土地を広げませんか?」と声をかけるのが業界のセオリーなのだが、それができない事情もあるという。

 

「我々もできる限り調査を行いますが、限界がありますので。逆に、調査で汚染物質が出たとして、土地の形状等から明らかに隣地に流れていると思われるケースもある。そんなの、重要事項説明書に書けるわけありませんよね。だからこそ、苦肉の策の〈A社からB社〉なのかと。そうでもしなければ、エンドに直接売れないのですよ」

 

「昭和30年代~40年代、言葉は悪いですが、環境汚染リスクは野放しで、工場で薬品を扱っても届け出の義務はありませんでした。東京都に〈環境確保条例〉ができたのも平成に入ってからですが、届け出義務とはいっても〈薬品を使っていたなら、廃業時に土壌汚染調査してください〉というお願いレベルで、厳格なものではない。ただ、事業者としてその届け出を出していれば、土地の売買の際に説明が必要になるのですが、昭和30年代~40年代はそれがなかったので、いくら良心を持っていても、お手上げ状態なのです」

 

近年、準工業地域に新築で買った方は、一度謄本を見てみよう。不動産業者間で短期間に売買されているなど、「もしかして」があるのかもしれない。

 

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