インボイス制度はなぜ「弱いものいじめ」とされているのか?
以上を踏まえ、インボイス制度の問題点を解説します。
◆従来の「免税事業者」がことさら不利益を被る
免税事業者はインボイスを発行できません。したがって、免税事業者の取引相手方はインボイスを受け取れず、消費税の計算をするのに「仕入税額控除」を行うことができません。
したがって、免税事業者の相手方で「仕入税額控除」を行っている事業者は、以下のいずれかを選ぶ可能性が高いのです。
・免税事業者との取引をやめる
・免税事業者に対して消費税相当額の値引きを要求する
これは、免税事業者にとって大きな不利益です。回避したければ、免税事業者は、インボイスを発行できる「課税事業者」になるしかありません。
そうなれば、従来と比べて以下の三重の負担を強いられることになります。
【免税事業者が課税事業者になることによる三重苦】
・消費税の納税義務を負う
・消費税の計算の手間・コストがかかる
・インボイス発行の手間・コストがかかる
そして、免税事業者の多くを占めるのは零細の個人事業主・フリーランスです。インボイス制度はそれらの人々を狙い撃ちするかのような制度設計になってしまっているということです。
◆免税事業者の「益税」は真っ赤なウソ
この点について、「免税事業者は本来なら消費税相当額を納税すべきだったのに自分のものにするという『益税』が横行していた。インボイス制度は本来のあり方に戻すものであり正当だ」という論調がみられます。「益税」という表現が使われることがあります。
「ひろゆき」や「ホリエモン」はまだしも、一定程度の良識を持ち合わせているというイメージのあった知識人も、一部、この立場に与しています。
しかし、「益税」というのはきわめて不公正かつ問題のあるレッテル貼りです。それは、免税事業者がどのような立場に置かれているかをみればわかります。免税事業者を以下の2類型に分けて解説します。
・もっぱら一般消費者を顧客とする免税事業者
・事業者から業務委託で仕事を請け負っている零細の免税事業者
第一に、もっぱら消費者を顧客とする免税事業者は、消費税の納税義務を負わない代わりに、消費税相当額を価格に転嫁してこなかったケースが多数みられます。
むしろ、仕入れの際に消費税相当額を支払っていれば、その分だけ損しているとみるべきです。
ちなみに、筆者は、2004年に消費税の免税事業者の範囲が「年間売上高3,000万円以下」から「年間売上高1,000万円以下」に引き下げられたときに、いきつけのラーメン店の店主が「消費税の課税事業者になるので値上げしなければならない」と申し訳なさそうに話していたことを今でも忘れることができません。
第二に、もっぱら業務委託で仕事を請け負っている零細の免税事業者は、これまで、消費税分を価格にどの程度転嫁できていたか、疑問があります。
形式的には「消費税分を上乗せした価格」かもしれませんが、実質的にはギリギリの価格だった可能性があります。特に、顧客との力関係の差が圧倒的である場合、免税事業者でありながら顧客に対し「価格に消費税分を上乗せしてください」ということはほぼ不可能です。
「益税は事実だからインボイスを批判するのは筋が悪い。報酬が低すぎることはインボイスと別の問題として対処すべき」という意見もあります(ひろゆきなど)。しかし、その低すぎる価格設定自体が、零細事業者が消費税分はおろか、本来の適正報酬額すら受け取れていなかったことを示しています。「益税」など幻だということです。「語るに落ちる」とはこのことです。
そもそも、免税事業者であれば、消費税分を価格転嫁しないことは、誠実な態度であるとともに、価格競争において少しでも優位に立つため正当な経営判断です。
以上を考慮すれば、免税事業者の「益税」は実態すらあやしいといわざるをえません。
むしろ、取引先のほうが、本来、免税事業者に支払っていない消費税相当額について「仕入税額控除」を行っている可能性すらあります。また、「簡易課税制度」を利用する場合、免税事業者との取引についても自動的に一定額が控除されることになります。
それら課税事業者の「益税」をさしおいて、免税事業者の実態すらあやしい「益税」をことさらあげつらってインボイス制度を正当化することは、「弱いものいじめ」以外の何ものでもないのです。
(※2023年1月24日加筆)なお、「益税」の詳細についてはさらに2023年1月24日の記事「恐ろしい…『インボイス制度』で中小企業いじめに邁進する政府がひた隠す!? 巨大企業の『益税利権の陰謀』とは?」において解説しておりますので、ご覧ください。