「意外と当たるんじゃないか?」年末ジャンボに競馬穴狙い…「限りなくゼロに近い勝率」ほど“イケる”気がしてくる、人間のトンデモ心理

「意外と当たるんじゃないか?」年末ジャンボに競馬穴狙い…「限りなくゼロに近い勝率」ほど“イケる”気がしてくる、人間のトンデモ心理
(※写真はイメージです/PIXTA)

伝統的な経済学では、私たち人類は損得計算を間違えることなく、いつでもどこでも“合理的な選択”ができるはずだと仮定します。しかし現実の私たちは、受け取ることのない保険金のために保険料を払い続けたり、基本的には儲からない宝くじや馬券を購入したりしています。私たちが損得計算を間違え、非合理的な行動をとってしまうのはなぜなのか? 太宰北斗氏の著書『行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-』(ワニブックス)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

「ドブ銭」とわかっていても、“魅力的”なギャンブル

来るか来ないか、当たるか当たらないか──。人々が確率を評価する、最もエキサイティングな瞬間と言えば決まっています。そう、競馬です!

 

そもそもギャンブルというのは一攫千金(いっかくせんきん)のチャンスにもあふれていて、人の目には大変魅力的に映るようです。そのためか、2021年度のJRA(日本中央競馬会)での馬券売上は約3兆円というほどの規模で、とんでもなく多くのお金が動いていることがわかります。

 

でも、賢い読者のあなたなら、どこかでこうも思っていませんか? ギャンブルなんて、お金をドブに捨てるようなものだ──。

 

一般の感覚からして、その予感はおそらく大体正しいのでしょう。

 

最大の理由は、大抵のギャンブルに存在する控除率(もしくは還元率)の存在です。

 

大ざっぱにギャンブルの仕組みを考えると、すべての参加者たちが賭けたお金は主催者側にいったんプールされ、それがギャンブルに勝った参加者の元に回されます。このとき、主催者側は当然のごとく、手数料を差し引きます(一部で例外もあるようです)。そうしないとギャンブルを運営できないからです。

 

しかしそうなると、みんなが賭けたお金は、少しだけ減った状態でみんなの元へと返ってくることになります。儲かるはずがない、それはそうですよね。

当てやすい「本命」、当たればデカい「大穴」

さて、競馬には、「大穴」「本命」と呼ばれる馬が存在します。当たる確率がほとんどないのに、当たったときの配当額が大きい出走馬を「大穴」、当たる確率が高いけれども、配当額が小さい出走馬を「本命」と呼びます。

 

確実性効果と可能性効果の観点でいけば、こうした本命や大穴の当たる確率は高く評価される傾向があることになります。

 

本当にそうか調べてみましょう。ここでお示しするデータは、2009年にJRAが主催した約3000レース、のべ5万頭に対するギャンブラーたちの馬券購入実績を分析した論文に基づきます。

大抵の賭博は「本命」「大穴」に投じるうまみは少ない

ここでは特に、1着にどの馬が来るかを当てる、「単勝」という馬券のデータについて見てみましょう。

 

ある出走馬に対する馬券購入の度合は、レースで実際にその馬が1着になるとギャンブラーたちが確率を見積もった結果です。したがって、1レース中で、ある出走馬が得た馬券の割合(得票率)は、「ギャンブラーたちが、その馬が1着になると主観的に評価した確率だ」と言うことができます。

 

これに対して、客観的な確率は、実際にその馬が1着になったかどうか、その勝率を見れば推測できます。

 

さて、図表2にこの主観確率と客観確率の関係をまとめました。

 

[図表2]競馬市場に表れる主観的な確率の歪み

 

ここでは、得票率の高い順からすべての競走馬を10グループに分けた場合の、得票率や実際に1着となった勝率を示しています。

 

まずは主観確率について見ていきましょう。

 

主観確率を示す平均得票率は、上位人気のいわゆる本命馬グループの場合、30.15%でした。一方、これらの出走馬のうち、実際に1着になった馬の割合(勝率)は29.12%でした。

 

わずかではありますが、“より確実だ”と見られる本命馬では、主観確率が客観確率を過大評価しています。この乖離(かいり)度合を、表の中では過熱度として表示してあり、本命馬では1.04倍となっています。

 

確率の主観的な評価での歪みの目玉は大穴馬の場合で、得票率0.28%に対して勝率は0.09%でした。したがって、主観的に3倍ほどの見積もりをしていたことになります。やはり、こちらも過大評価されています。

 

これは、「可能性効果」が働いていることを示唆(しさ)しそうな傾向ですよね。「どの出走馬が1着になるか」、その確率をどれだけ正しく見積もれるかを競うギャンブルで、ヒトは確率をうまく見込めていないわけです。そうなると当然、その稼ぎ自体にも悪い影響が出てきます。

 

図表2の右2列には平均得票率から想定されるオッズと、稼げる度合を示す回収率を記載しました。オッズというのは配当金の倍率で、100円を賭けて実際に的中した場合に、何倍になって返ってくるかを示します(控除率を80%として推計しました)。

 

回収率は100円を賭けた場合に大体いくら返ってきそうであるかをパーセント表記にして載せています。100%を超えていれば100円以上を稼ぎ出せる可能性があるということです。

 

客観確率への見込みがうまくできていなかった大穴馬のグループについて見ると、回収率は大きく落ちて25.12%となっていました。

 

つまり、100円を賭けると、大体25.12円になって返ってくるというわけです。可能性効果によって判断を歪める分だけ、大穴に賭ける人は大きく損をしていることになります。

 

こうした傾向は、より客観確率が低いときほど強く、日本の競馬で代表的な3連単市場などではより厳しい結果であったと論文では報告されています。

 

本命や大穴が過剰に人気を示すこの現象は、実は「本命─大穴バイアス」として有名で、競馬に限らず多くのギャンブル市場で世界的に見られる現象です。結果、大抵のギャンブルでは、本命や大穴へ投資するうまみは少ないわけです。

次ページ実際の勝率より過少人気な「中間層」こそ狙い目

※本連載は、太宰北斗氏の著書『行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-

行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-

太宰 北斗

ワニブックス

「税抜価格を表示したら売上が上がる!?」 「経済学を学ぶと所得が上がる!?」 「競馬で賭けるなら“本命” “大穴”は外すべき!」 「3割バッターが最終試合を休む理由とは?」etc. “リアルに得する経済学”をおもしろい…

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