サラリーマンの専業主婦には130万円の壁がある
本稿は、サラリーマン(男女を問わず、公務員を含む、以下同様)の専業主婦(専業主夫を含む、以下同様)の公的年金に関する内容となっており、自営業者の配偶者、また、夫婦ともに正社員の方には関係ないものであることを、まずはお断りしておきたいと思います。
さて、日本の公的年金制度は2階建ての構造となっており、1階部分は全員が加入する国民年金、2階部分はサラリーマンが加入する厚生年金です。この1階部分は、「サラリーマン」「サラリーマンの専業主婦」「それ以外(自営業者、非正規労働者、学生、失業者、自営業者の専業主婦、等々)」という3つのグループに分けられています。そして、保険料の支払いについては、下記のようになっています。
★サラリーマン:厚生年金保険料を給料から天引きされます。
★サラリーマンの専業主婦:保険料を払う必要はなく、配偶者が厚生年金保険料を支払ったことで、自分も年金保険料を支払ったとみなしてもらえます。
★それ以外:自分で国民年金の保険料を支払う必要があります。
問題は、「専業主婦」の定義と、「サラリーマン」の定義です。サラリーマンの専業主婦が一定以上働くと、専業主婦とみなされなくなったり、自分自身がサラリーマンとみなされるようになったりするわけです。
「専業主婦・サラリーマン」の定義を正しく理解しよう
まずは、専業主婦の定義です。これは単純で、自営業やパート等の年収が130万円を超えると、配偶者に養ってもらっているという扱いをしてもらえません。したがって、自分で年金保険料を支払う必要が出てくるわけです。
それを嫌って、年収を130万円以内に抑えるように働き方を調整している専業主婦が大勢いるので、「130万円の壁」と呼ばれているわけですね。
年収の壁とは別に、「サラリーマンの定義」も問題になります。厚生年金保険料を支払う義務が生じるような働き方をするか否か、ということです。これは年収130万円とは直接関係がないので、しっかり区別して理解する必要があります。
支払う保険料は「国民年金」か、「厚生年金」か?
要件は複雑ですが、ここでは単純化して「大企業で週に20時間以上働くか、中小企業で週に30時間以上働くと、サラリーマンとみなされる」としておきましょう。
年収が130万円以上だと、年金保険料を支払う必要があるのですが、支払う保険料が国民年金保険料なのか厚生年金保険料なのか、という違いがあるわけです。時給を1,000円として計算してみましょう。
中小企業で週に30時間働くと年収が150万円強となりますから、専業主婦とはみなされません。したがって、いずれにしても年金保険料を支払う必要があるのですが、30時間を超えればサラリーマンとみなされて厚生年金保険料を、30時間弱だと国民年金保険料を支払うことになります。
年収が130万円以下の場合は、サラリーマンとみなされると厚生年金保険料を払うことになりますが、みなされなければ、サラリーマンの専業主婦としてなにも払う必要がありません。
大企業で週に20時間働くと、年収は100万円強しかないのに、サラリーマンとみなされて厚生年金保険料を払う必要が出てきます。中小企業なら、週に20時間働いてもサラリーマンとみなされないので年金保険料を払う必要はないのに…です。
もっとも、どちらが得であるかはなんともいえません。厚生年金保険料を払っておけば老後に厚生年金が受け取れるので、生涯所得を考えればそのほうが得かもしれないですし、損得以前に、老後の不安が和らぐかもしれないからです。
最悪は「収入130万円以上、厚生年金未加入」のケース
上記によると、サラリーマンの主婦は、以下の2つの条件を満たすか否かで4つに分類されます。
●130万円を超えるか否か
●サラリーマンとみなされるか否か
そのうち最悪なのは、130万円を超えているのに、サラリーマンとみなされない場合です。
中小企業で週に30時間弱働くと、年収が130万円を超えるので国民年金保険料を支払う必要が出てきますが、老後に厚生年金は受け取れません。それなら、
●年収を130万円以下に抑える
●30時間以上働いて厚生年金に加入する
●大企業に移籍して厚生年金に加入する
の、どれかを選ぶべきでしょう。
130万円を超えると、年金保険料を支払う必要が出てきますが、その場合には厚生年金に加入できるような働き方をすれば、老後の生活が安定しますから、悪い話ではありません。
130万円を超えない場合は、サラリーマンとみなされなければ年金保険料を払う必要はありません。それはそれで悪くはないですね。
また、たとえば大企業で週に21時間働いてサラリーマンとみなされれば、年収が低くても厚生年金に加入しますから、短期的には保険料の負担が生じますが、老後の厚生年金は頼りになりますから、それも悪くありません。
あとの3つのうちでどれを選ぶかは、さまざまな考えがあるでしょうが、最初の選択肢、すなわち年収が130万円を超えても厚生年金に加入できないような働き方だけはぜひとも避けたいものです。
本稿は以上ですが、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。
塚崎 公義
経済評論家
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】