「自然資本の回復」という潮流もインフレ圧力に
実はもう一つ、インフレ圧力が高まる要因があります。それは、世界で「自然資本(天然資源)の回復」という考えが根付きつつあることです。第一次から第三次産業革命までの間に、先進国は世界中の天然資源を使って成長してきました。
そして、近年は中国を中心とした新興国が同じように大量の天然資源を使って急成長を遂げてきたわけですが、ここにきて世界の国々は「天然資源は有限」という考えに傾注するようになりました。
要は、「使った資源は元に戻しましょう」「エネルギーの無駄を極力なくしましょう」「地球にやさしいエネルギーの比率を高めましょう」という考え方が根付きつつあるわけです。
口で言うだけなら簡単でしょう。しかし、環境の回復にはお金がかかりますし、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの設置にもコストがかかります。こうした巨額のコストは、確実にコストプッシュ型のインフレの要因になります。
これは天然資源が回復しない限り、収束することはありません。つまり、ほぼ永続的に続くということです。日本は資源がない国なので、この「自然資本の回復」という流れも、立ち向かわなければならない困難の一つになるでしょう。
インフレから日本売りに
では、肝心の日本はどうでしょうか。日本でもインフレの波が襲い始めています。
しかし、景気回復による需要拡大を背景とした「ディマンドプル型」のインフレではなく、資源・エネルギー価格の上昇や、長期では「サプライチェーンの崩壊」「自然資本の回帰」などを背景とした「コストプッシュ型」のインフレです。
日本のインフレはこのまま続くのでしょうか? 日本の成長率を引き上げ、賃金が上昇し、消費が拡大するというポジティブサイクルをつくるために、日本も米国のように早めに大胆な財政政策をすべきでしたが、そのタイミングを逃しました。
結果、インフレ率は上昇するがコストプッシュ型インフレであり、日本の成長率は低いまま。真のデフレからの脱却は困難です。
もし今後、さらに名目金利が上昇すると、日銀が保有している国債に含み損が生じることになり、日銀の信用リスク懸念が表面化していきます。
また、株式マーケットも下落する可能性が高いので、日銀が保有している株式にも含み損が生じれば、これも日銀の信用リスク懸念につながります。結果、日本売りになるリスクが考えられます。
河野眞一
株式会社エリュー 代表取締役CEO