投資と投機のバランスが大切
よく「株式投資はギャンブルだ」という話を耳にします。ギャンブルの定義によって答えは変わってきますが、それに対しては「投資と投機は違う」、「そもそも投機さえもギャンブルではない」と答えるのが模範的かもしれません。
ギャンブルは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」であり、勝敗を天運に委ねるもの。対して投機とは、短期的に生じる金融市場の〝ノイズ〟をとらえ、値幅を取ることでリターンを得る手法でしょう。
その〝ノイズ〟を捉えるために、ありとあらゆる分析が行われます。そこには、少しでも勝率を上げようと時間やコストが消費されているわけですから、これを「当たるも八卦」の行為と捉えるのは無理があるでしょう。
ギャンブルと思われている投機さえも、実はギャンブルではありません。その投機も、あくまで短期的に生じる〝ノイズ〟を捉え値幅を取るトレードで、「本来の投資」とは明らかに異なります。
私がかつて勤めていた「ブラックロック」でも、コンピュータプログラムによる短期のディーリングをしていました。超短期取引の世界では、数秒後の値動きを高度な分析によってある程度は予測することは可能です。
数秒後、あるいは数分後に起こり得る〝ノイズ〟を捉え、短期で収益を上げる手法です。私は、短期取引を否定しているわけではまったくありません。金融市場や資本市場の参加者たちは、おのおのが目的や方針に基づいて動いているわけであり、すべての参加者が「本来の投資」だけを行う必要はないでしょう。
ただ近年、明らかに「本来の投資」が減少しています。「本来の投資」と「それ以外の投資」に関して、「それ以外の投資」の部分が大きくなり過ぎてしまい、バランスが悪くなっているように思います。
他人に正解を求める「群集心理」がマーケットを一方通行に
近年では、ツイッターなどのSNSの普及が、短期取引の増加に影響している可能性があります。SNS上には、日々投資について意見を交換し合ったり、他人のつぶやきから情報を得たりする「株クラ」(株クラスタの略)というコミュニティがあります。
また、多くの投資家の考え方や行動に強い影響力を持つインフルエンサーも誕生しています。それによって、投資の世界では「群集心理」が強くはたらくようになりました。
「群集心理」とは、心理学の用語で「個人ではできないことも、集団になるとできるようになってしまう」という心の状態のこと。人は、集団になると「他人がこう動くから、あるいは他人からの賛同を得られたから、これが正解なんだ」という思考に陥る傾向があります。
人々は自分の行動が正しいか、多くの人の考え方と一致しているのかという疑問や不安を抱え、その正解を他人の意見に求める傾向が強くなっているように思います。SNSがなかった時代、突発的な何かが起きた場合は自分でその答えを探そうと努力せざるを得ませんでした。
しかし、SNSの普及によって、正解をその他大勢の賛同=「いいね」に委ねる傾向が強まっています。投資家の行動に「群集心理」が反映しやすくなったと言っていいでしょう。
自分の疑問に対する解答をSNSに求め、同じ行動を取る群集が形成されることで、マーケットの流れは一方通行に傾きやすくなりました。こうした「群集心理」の形成は、マーケットにとっては短期的な影響しか与えません。この本では〝ノイズ〟と呼んでいる部分です。
その〝ノイズ〟に乗っかることでリターンは得られるかもしれませんが、それはあくまで一時的なもの。現在のマーケットには、この〝ノイズ〟を取りに行く人があまりにも多すぎるのではないでしょうか。