※画像はイメージです/PIXTA

立場が異なる複数の関係者が対象者を評価する「360度評価」。2019年から全省庁の課長級以上がこの評価制度の対象となったことでも一時話題となりました。導入する組織も増えるなか、実際にはうまく制度を運用できていないことが多いといいます。なぜなのでしょうか、みていきます。

 

「360度評価」のデメリット

では、この制度のデメリットはどのようなことでしょうか。まず考えられるのは、上司と部下という関係の機能不全です。360度評価では部下も評価者になるため、上司が部下に気を遣わなければならなくなります。上司は、部下に頼みたい仕事があっても、「こんなことを頼むと嫌がられるかもしれない」という思考が働き、依頼がしにくくなります。

 

それが積み重なれば、上司としてしなければならない業務の遂行に支障をきたす恐れがあるでしょう。仕事を抱え込みすぎて、上司の業務過多が発生してしまうわけです。そうならないようになんとか部下に仕事を落とそうとしても、360度評価は部下側に「自分は上司を評価できる」と認識させる制度ですから、その部下を動かそうとする際には彼らを納得させるための説明が必要になります。この時間が企業にとってはロスタイムになってきます。

 

一番問題なのは、社員が本来そのポストでの役割を果たすことよりも、周囲からの人気取りのほうが重要な仕事だと勘違いしてしまう可能性があることです。自分の仕事をなげうって他部署の仕事を手伝いにいったり、部下と友達のような関係を築こうとしてしまったりするかもしれません。こうなると、評価制度を運用する以前に組織全体の生産性が大きく落ち込んでしまいかねないのです。

「360度評価」をうまく運用するには?

つまるところ、組織の生産性を考えたとき、360度評価はお勧めできません。特に、時間も予算も限られたなかで、まさに日々是戦いである中小企業には、360度評価を運用し切る体力はないと私は思っています。

 

ただ、すでに360度評価を始めてしまっている、もしくは、これまでなんとか進めてきて完成が間近にみえているという企業もあるかと思いますので、これから運用していくために、または最後のピースを埋めるために必要なことをお伝えします。

 

まず、社員を360度評価だけで評価するのは止めましょう。360度評価を給与や昇降格の決定に用いるのではなく、被評価者に「あなたは周囲からこのように思われている」ということをフィードバックし、今後の改善に結びつけるためのヒントを与えることを目的として活用するのです。当然、非常によい、もしくは悪い場合はそれを人事考課などの参考にすることはあり得ますが、あくまでも評価制度の一部という立て付けにしておきましょう。

 

そして、合格点の状態や100点の状態を明確に定義しておくことです。360度評価は、社員を多面的に評価ができるメリットがありますが、それは見方を変えれば評価者によって評価の基準が異なってしまうということにほかなりません。

 

この基準を社内でそろえたうえで、「基準に照らしたとき、評価者であるあなたにとって、被評価者は理想の上司(同僚または部下)か」を問う形にするのです。こうすれば、360度評価のデメリットをある程度解消しつつそのメリットを最大限享受できるようになるでしょう。

360度評価が「向いている組織」と「向かない組織」

組織はそれぞれの役割が決まっていて、自分の役割を認識したメンバーが、それをまっとうすることによって成り立っています。ここにずれが起きなければ、成果を出し続けることができるのです。ところが、役割が不明確になったりその役割を果たすうえでの障害が発生したりすると、組織のパフォーマンスは低下してしまいます。

 

したがって、組織体制が整っていないのに評価制度を構築しようとしてもうまくいかないかもしれません。同時に、どういう評価制度を活用することが自社にとって理想的かを考える視点が大切です。360度評価は、すでに成熟期以降の状況にあり、ポストや部署の役割が明確になっていて、かつそれらがあまり動かない組織では比較的活用しやすいかもしれません。

 

一方で、人もポストも役割の内容も流動的である成長途上のベンチャー企業などでは運用が非常に難しいと思います。

 

 

有手 啓太

株式会社識学

西日本営業部 部長 上席コンサルタント

 

 

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