「かけられるコスト」は売上に依存する?
大手町さん「これは余談になるけれど、先ほどの話の補足をしておこう。売上が増加傾向にある会社は、かけられる費用も当然大きくなるよね(図表11)。」
増収増益傾向の会社ほど、当然ながら、使えるお金は増えていきますね。一方、減収減益傾向の会社は、それだけ投資に回せなくなります(図表12)。先ほど紹介した大塚家具の事例のように「負のサイクル」に陥ってしまうこともあります。
ともに家具の小売大手として有名な、大塚家具とニトリですが、この2社はなぜ差がついたのかというと、一因として「投資できる金額が全然違う」という理由が挙げられます。
図表13はニトリの実績を15年分並べたものです。ニトリは売上がひたすらに右肩上がりで、これはそのまま投資できる金額に繋がっています。
一方の大塚家具は売上が下降傾向にあるために、当然かけられる費用も下がってしまっているという状態です(図表14)。
では、ライフネット生命保険の「かけられるコスト」はどのように考えるべきでしょうか。
「売上を上回るコスト」をかけられるのはなぜ?
毎月課金されるサブスクリプション型で売上を立てている会社の場合、純粋に売上高が指標として機能しづらい側面があります。
つまり、
●サブスクリプションサービスの場合、売上高よりもLTVを確認
●LTVが大きい会社ほど、顧客獲得にかけられる費用も大きい傾向
ということになります。
大手町さん「LTVはLife Time Value(生涯顧客価値)という意味の指標です。1人の顧客が将来にわたって、どれだけの収益を生み出すかを意味します。」
ライフネット生命保険であれば、「1人あたりのお客さんが生涯にわたってどれだけ収益を生み出すのか」を基準にして、そこから「1人あたりのお客さんにどれだけコストをかけられるのか」を考えています。
だから「売上ではなくLTV(生涯顧客価値)が重要」ということになるのです。仮に売上の金額は少なかったとしても、それ以上の顧客獲得コストをかけられる背景としては、ライフネット生命保険がLTVという指標を見ているからです。
ちなみに、ライフネット生命保険は有価証券報告書や決算説明資料において、自社のビジネス上の留意すべき事項を公開しています。
まず有価証券報告書の【事業等のリスク】では、長期間にわたっての保険料収受が発生する一方で、契約前後の短期間に広告や契約の手数料などが費用として計上され、会計上では損失として表示されることが明記されています(図表18)。
また、このビジネスモデルについては、決算説明資料でも「顧客1人あたりが、生涯生み出す収益」についての開示をしています。
顧客1人あたり年間4.3万円しか売上を生み出さないのに、その顧客の獲得コストに6.7万円かけているのはなぜかというと、平均保険年数が約17年続くから、ということです。
営業さん「サブスク型のビジネスは、お客さんがその契約期間にどれだけの収益を生み出すのかを考えないと、その会社がかけられるコストがわからないんですね。」
銀行員さん「大塚家具やニトリとは、そもそもコストのかけ方が違うんですね。勉強になりました。」
決算説明資料では、決算書からは読み取りきれない内容を補足しています(図表19)。投資家に対して、自分たちのビジネスにおいて重視している指標などを開示することで、リレーションをはかっているということがわかりますね。
【まとめ:良い赤字・悪い赤字の違いの見抜き方】
●赤字だから悪い、ではなく、かならず理由も確認する必要がある
●ビジネスモデルによりみるポイントは大きく異なるため、数字だけを見て判断しないことが重要
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※※本稿の【情報のソース】※※
今回の【情報のソース】
①有価証券報告書
・第1【企業の概況】
・第2【事業の状況】
・第5【経理の状況】
②決算説明会資料
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大手町のランダムウォーカー
Twitterフォロワー数10万人。公認会計士試験合格後、大手監査法人勤務を経て独立。「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」を合言葉に「大手町のランダムウォーカー」として「#会計クイズ」を始め、様々な業種・立場の人をネット上で巻き込み好評を博す。
現在は株式会社Fundaにて、営業メンバー・新規事業立ち上げメンバー向けにアプリを使ったビジネス研修サービスを提供。
初の著書『世界一楽しい決算書の読み方』(KADOKAWA)は紙・電子累計25万部を突破。