同じ「赤字」でも意味合いは全く異なる
では、この2社の赤字の「中身」を見ていきましょう。
大手町さん「解説に入る前に、そもそも、なぜ赤字はダメなんだと思う?」
学生さん「え? 赤字が続くと倒産してしまうからではないんですか?」
大手町さん「それは少し違うんだ。企業は赤字になって倒産するのではなく、現金が底を突き、支払いが滞ってしまうことによって倒産してしまうんだよ。」
「赤字が続くと、行き着く先は倒産」という先入観があり、赤字はネガティブなイメージを持たれがちです。
ただ、赤字が倒産に繋がるというのは、実は少し違います。赤字だから倒産するのではなくて、企業は現金が払えなくなったために倒産するのです。
赤字の質を見抜くには、ビジネスモデルの理解が必要
大塚家具とライフネット生命保険、この2社の数値をパッと見た時、両社ともずっと赤字の会社であるように見えます。ですが、単に決算数値を見るだけではなく、ビジネスモデルを把握していないと、赤字の質について理解することはできません。
<質のいい赤字:ライフネット生命の赤字理由>
まず、ライフネット生命保険の収益モデルはどうなっているでしょうか。保険の会社ですから、たとえば、とあるお客様の加入1年目にいきなり売上が全額入るわけではありませんよね。
保険収入は中長期にわたって発生する収益モデルです。お客さんを獲得するためにかかったコストは加入1年目に発生しますが、その収益は長期間にわたって発生するという特徴があります(図表5)。したがって、初年度に多額の費用が発生しやすいビジネスであるというのが、ライフネット生命保険の特徴です。
この収益構造ですが、実は既存の損益計算書では判断することができないようになっています。たとえば収益の計算をしてみると、顧客1人が生涯にわたって生み出す収益(LTV=Life Time Value)が71万円あるのに対して、売上原価や顧客獲得費用を比較して計算してみると、顧客1人から十分な利益が発生していることが読み取れます(図表6)。
ただし損益計算書上では、どうしても年間の売上しか計上されない一方で、顧客獲得コストは初年度に多額に計上されるため、1年間だと損失として表示されてしまうという、会計の限界が存在します。
長期的な視点での収益構造を見てみなければ、「通算ではきちんと1人の顧客から利益が出ている」ということがわからないのです(図表7)。
ライフネット生命のビジネスの特徴として、「保険契約件数」が増えれば増えるほど、赤字がどんどん拡大してしまいます(図表8)。なぜなら、顧客獲得コストが初年度に計上されるからです。
顧客が増えるほど赤字は拡大していきますが、生涯期間ではきちんと利益が発生するような収益構造になります。しかし、やはり損益計算書上ではどうしても赤字が先行しているように見えますね。これが「質の良い赤字」という言葉の意味です。
<質の悪い赤字:大塚家具の赤字理由>
一方、大塚家具の決算書を見てみましょう。売上は年々減少傾向にあるうえ、その状態でさらに赤字が発生しているということが読み取れます(図表9)。
売上が減少すると、当然不採算の店舗が出てきます。不採算が続くと、行き着く先はその店舗を閉店するという選択を取るでしょう。
撤退すると販売力が低下し、その結果、売上も減少します。
そして、売上が減少すると、その分だけ「かけられる予算」は当然減ってしまうので、投資予算が削減されます。そうなると、人件費が減ったり広告宣伝費が減ってきて、さらに販売力が低下すると、また不採算の店舗が出てくるという、負のサイクルに陥ってしまいがちです(図表10)。これは、質の悪い赤字の事例であるといえます。
営業さん「同じ赤字でも、実はその内実は全く違うんですね。」
大手町さん「そう。なので、表面的な数字ではなくて、きちんとその会社がどのようなビジネスを展開しているのかによって、赤字の質を見抜かないと、読み間違いをしてしまうんだね。」
------------------------------------------
<ライフネット生命のビジネスモデル>
●顧客獲得コストが先行し、赤字になりやすい
●売上ではなくLTV(生涯顧客価値)ベースで確認する必要がある
●契約件数が増加するに応じて赤字が拡大するビジネス
⇒結論:質の良い赤字
------------------------------------------
------------------------------------------
<大塚家具の赤字原因>
●売上が年々縮小
●店舗にかけられるコストも年々減少
⇒結論:質の悪い赤字
------------------------------------------