再手術でレンズを交換していない瞳の視力まで回復したのは何故か?
患者の眼内レンズや眼の状態を確認し、両眼にそれぞれ異なる、かつ間違った度数のレンズが入っていることによる不定愁訴だろうと考えた私たちは、2焦点の方のレンズを摘出し、単焦点レンズに交換しました。
もちろん交換の際には正しい度数計算を行い、見え方も修正しました。
レンズ交換後、しばらくして、患者の頭痛や吐き気は改善しました。まだ多少のめまいは残っていたものの、不定愁訴の大半を改善させることができたのです。
ここまでは想定内の結果です。ところがさらにもう一つ、驚くべきことが起こりました。
レンズを摘出・交換した眼の視力は当然のことながら回復し、0.4から1.2にまで上昇しました。ところが何も手を加えていない方の眼、もともと単焦点レンズが入っていた方の眼の視力も0.4であったものが0.7にまで回復したのです。
この患者のケースから、私たちは一つの仮説を立てました。それは「眼内レンズを挿入した患者でも、従来は起こらないと考えられてきた眼精疲労が起こるのではないか」ということです。
何も手を加えていない方の眼の視力が回復したのは、眼精疲労が改善したからではないかと考えました。この患者は間違った度数の異なる焦点のレンズを挿入されていたため、絶え間なく毛様体が働き、過緊張になって眼精疲労が起こっていた、そしてそれを改善したことによって、視力が回復したと考えられるのです。
人工レンズを入れている人の眼精疲労を計測する実験
また、眼内レンズを入れた眼の眼精疲労を計測する方法を模索しているなかで、極めて興味深い論文に出会いました。
もともと、眼内レンズは人工物であるため、レンズそのものは伸び縮みをせず毛様体もはたらかず、過緊張による眼精疲労は少ないと考えられていました。しかし2008年に公表された論文により、眼内レンズを入れた人であっても、物を見ようとして焦点を合わせるときには、わずかながら毛様体や眼内レンズが動いていることが明らかにされました。
調節微動解析装置は、毛様体という筋肉が緊張しているとき、HFCと呼ばれる調節微動高周波の出現頻度が高くなるため、眼精疲労が起こっている可能性が高いことを示します。そのため、眼内レンズを入れた眼であっても、毛様体が動いているのであれば、調節微動を測定することにより、眼精疲労を計測できるのではないかと私たちは考えました。
そこで、単焦点眼内レンズを入れた124人を対象に、白内障手術後の2ヵ月と6ヵ月後に調節微動解析装置を使って眼精疲労の計測を実施しました。