(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が進むに伴い、認知症患者数も増加傾向にあります。そこで認知症に備えて検討すべきことのひとつが、自身で財産管理ができなくなったときに家族が代理で財産管理を行えるようにする「民事信託」です。判断能力が失われてしまうと選択肢が限られてしまうため、早めに生前対策について考えておきましょう。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、民事信託について吉川明奈弁護士に解説していただきました。

預貯金について

預貯金については、一般的に譲渡禁止の特約が付されていますので、そのままでは受託者が管理することはできません。

 

受託者が委託者の金銭を管理する際には、以下のような方法を用いることになります。

 

・委託者が預貯金を引き出し現金化して、金銭を受託者に引き渡す

・受託者が、受託者の固有財産や他の信託財産に属する財産と区別して管理する

 

信託法は、預金債権に関する分別管理義務(=受託者に課される、信託財産と固有財産及び他の信託財産とを分別管理する義務)について、「その計算を明らかにする方法」と規定しており、委託者から委託された金銭を受託者名義の口座で管理することを禁止してはいません。つまり、委託者から受け取った金銭を受託者名義の口座で管理することも、法律上は可能です。

 

ただ、受託者名義で開設した口座で委託者の金銭を管理していると、受託者の個人的な債権者から預貯金の差押えを受けた場合、受託者が破産手続開始決定を受けた場合、受託者が死亡した場合など、その預貯金が信託財産であることを知らない金融機関から一時的に信託財産である預貯金を凍結されるおそれがあります。

 

そのため、信託財産の対象になることを名義上明らかにした【信託口口座】を開設することが望ましいです。

 

株式について

株式の譲渡手続を行い、株式譲渡に関する対抗要件(簡単にいうと、会社や第三者に対して「自分が株式を譲り受けた」、「自分が株主である」と主張するための要件)とその株式が信託財産に属することの対抗要件を具備する必要があります。少し細かい話になりますので、後述します。

 

株式の分別管理義務について、株式の種類ごとに説明します。

 

*上場株式(振替株式)

 

上場株式の分別管理方法は、信託法などで、「振替口座簿に信託財産に属する旨を記載又は記録するとともに、その計算を明らかにする方法」と定められており、上場株式について、受託者名義の口座で管理する事は、預貯金と同様、信託法で禁止されてはいません。

 

ただ、証券会社では信託口口座を開設することが一般的ですので、受託者名義の口座での管理を認めているかについて、あらかじめ、口座開設を希望する証券会社に確認する必要があります。また、信託実務上は、信託口口座を開設することが望ましいです。

 

*譲渡制限付株式

 

・株券不発行会社の株式

分別管理方法は、信託法などで、「当該株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載または記録するとともに、その計算を明らかにする方法」と定められています。

 

・株券発行会社の株式

分別管理方法は、信託法で「その計算を明らかにする方法」と定められています。

 

贈与税について

本件は、委託者と受益者がいずれもなかのさんのお父様となっている自益信託です。自益信託では、信託の効力発生の前と後で信託財産から利益を受ける人が同じですので、受託者が経済的な利益を受けた、つまり贈与を受けたとは言えません。そのため、信託設定時に贈与税が発生することはありません。

 

ただし、例えば、信託契約で委託者兼受益者が死亡した場合に財産を引き継ぐ者をなかのさんと定める場合など、財産を引き継いだなかのさんに相続税がかかりますので、注意が必要です。

次ページ株式の譲渡手続と対抗要件

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