撮影当日
その後、翔太に確認してもらったところ、二日前になっても、信子さんは家族に撮影の話をしていないようでした。撮影当日。信子さんは一人で僕を出迎えてくれました。
「結局、お一人での撮影になりますか?」
「私が勝手にやりたいって思ったことに、みんなを巻き込むのが申し訳なくてね」
すると、そこに女性の声が響きました。
「なに言ってんのよ、おばあちゃん!」
翔太が、信子さんの息子さんと孫娘の一人を連れてきてくれたのです。
「さすがに全員は揃えられなかったけど、一人よりはマシでしょ」
息子さんは、信子さんの肩を軽く小突いて笑いました。
「水臭いじゃないか。こんなおもしろそうなことなら、一緒にやらせてくれよ」
そして始まった撮影では、信子さんの両親の話から、赤ん坊の頃の話、そして成長し、子どもや孫たちに恵まれるまで、信子さんの輝かしい人生が語られました。伝える相手がいるからでしょう。
信子さんはきらきらした笑顔で身振り手振りを交えながら話してくれます。家族たちも一緒に楽しく話し、初めて聞く話に驚き、興奮していました。僕はカメラを覗き込みながら、そんな瞬間を撮影できる喜びを感じました。
「こんなに話すなんて思わなかったわ」
僕が片付けをしていると、信子さんがふと漏らしました。息子さんも笑顔で続けます。
「初めて聞いた話ばかりですごく楽しかったよ」
「本当に。これでもう思い残すこともないわ」
「なに言ってんだよ。まだまだ元気でいてくれないと困るよ」
息子さんの言葉に、信子さんはその日一番の笑顔を見せてくれました。
株式会社サステナブルスタイル
後藤 光