(※写真はイメージです/PIXTA)

原油や天然ガスなどの原材料価格が高騰し、製造コストを圧迫する現状では、値上げに踏み切らなくては下請け製造業に未来はない、と700社を超える中小製造業の経営改善を支援してきた大場正樹氏は言います。本連載では、「値上げできない」は多くの中小製造業の思い込みであると語る大場氏が、「インフレ時代に生き残るための値上げ」について、交渉に勝つ価格設定や、実際の交渉テクニックなど具体的な戦略をわかりやすく解説します。

光熱費の持続的な値上げはいつまで続くのか

2021年度の火力発電の燃料費と都市ガス原料費が、前年度比54%増になりました。

 

背景にあるのはCO2削減の流れと新型コロナウイルスの流行、そして円安です。2020年度にはコロナ禍で経済活動が停滞し、燃料の需要は急激に減少しました。

 

その翌年、2021年度は経済回復が進んで世界的に燃料の需要が増大したのですが、産油国は世界的なCO2削減の流れを見て慎重な姿勢を崩さずに増産を見送ったため、供給が追いつかずに価格が上がったのです。

 

原油だけでなく天然ガスもまた価格が上昇したため、電気とガスの小売価格が高騰しました。さらに加えて、2022年2月からのロシアとウクライナの紛争で、資源国ロシアからの石油、石炭、天然ガスの供給がストップしそうです。すでに岸田政権は西側諸国による経済制裁に同調して「ロシア産石油の禁輸」を発表しています。

 

出典:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構「天然ガス・LNG価格動向」2022年4月
出典:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構「天然ガス・LNG価格動向」2022年4月

 

つまり、今後も電気とガスの価格上昇は止まりません。2022年6月の大手電力会社の電気料金は、過去5年間で最も高い水準となりました。多くの企業で、電気料金が前年同月比で3~6割上昇しています。

 

さらに、全世界的なエネルギー資源の争奪戦に、低価格を売りに消費者を獲得していた新電力会社が次々と負けて倒産しています。

 

2016年の電力小売全面自由化によって、日本には新電力会社と呼ばれる小売事業会社が700以上も誕生しました。ところが帝国データバンクの調査によれば、このうち14社が2021年度に倒産し、31社が事業から撤退しています。

 

また、東京商工リサーチの調査によれば、上位137社のうち102社が2021年度を赤字決算としています。燃料費が高騰しているにもかかわらず電気料金を安く設定しているため、採算が採れないのです。

 

また日経エネルギーNextが、新電力のシェアの9割を握っている上位54社に調査したところ、すべての会社が新規受付をほぼ停止にするなど、エネルギー価格の高騰を前に、事業継続に対して及び腰であることが分かりました。

価格転嫁ができない下請け企業

原材料価格やエネルギー価格の値上げは、最終的に消費者価格に反映せざるを得ません。

 

しかし、原材料価格が上がったからといって、すぐに製品価格が上がるわけではありません。なにしろ日本は40年近く、デフレ状態にあったのです。少しくらい原材料価格が上がったといっても、そのうちに下がるのであればすぐに製品価格に反映させられません。また、消費者もデフレに慣れてしまっているので、値上げに対しては反発が予想されます。

 

そのため日本の製造業では、多少の原材料価格の値上がりに対しては、企業努力で吸収する、つまり利益を減らして我慢するという体質がすっかり身についてしまっているのです。

 

その証拠をデータで示していきます。

次ページ「価格転嫁」できている企業の割合は…

※本連載は、2022年9月27日発売の書籍『インフレ時代を生き残る 下請け製造業のための劇的価格交渉術』から抜粋したものです。その後の制度改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

インフレ時代を生き残る 下請け製造業のための劇的価格交渉術

インフレ時代を生き残る 下請け製造業のための劇的価格交渉術

大場 正樹

幻冬舎メディアコンサルティング

バブル崩壊から30年、デフレが続いた日本を未曾有のインフレが襲う。 「値上げできない」という思い込みからの脱却が 原材料価格の高騰に苦しむ下請け製造業の活路を拓く。 これまで700社を超える中小製造業の経営改善…

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