(※写真はイメージです/PIXTA)

原油や天然ガスなどの原材料価格が高騰し、製造コストを圧迫する現状では、値上げに踏み切らなくては下請け製造業に未来はない、と700社を超える中小製造業の経営改善を支援してきた大場正樹氏は言います。本連載では、「値上げできない」は多くの中小製造業の思い込みであると語る大場氏が、「インフレ時代に生き残るための値上げ」について、交渉に勝つ価格設定や、実際の交渉テクニックなど具体的な戦略をわかりやすく解説します。

 

インフレとヒト不足が引き起こす賃金高騰

モノ不足から引き起こされるのはインフレです。需要が減らないのに供給されるモノが減ることで、多少高くても入手したいという人が増えて価格は上がっていくのです。そのことは木材や鋼材の価格上昇からも明らかです。

 

一方、ヒト不足から引き起こされるのは人件費の高騰です。日本はデフレで給料もほとんど上がらないままだと考えている人もいるでしょうから、なかなか信じがたいことかもしれませんが、ここ20年にわたって政府の定める最低賃金は上昇を続けているのです。

 

例えば最低賃金は都道府県により異なりますが、全国加重平均で見ると2002年は時給にして663円で、2021年は930円です。その上昇率は20年間で1.4倍にもなります。持論ですが、あと2~3年で時給はさらに1.4倍になると考えています。ここ数年のインフレはそれほどまでに急激な賃上げをしなければ対応できないところにまで来ているのです。

 

最も高額なのは東京都の時給1041円で、神奈川県の1040円が続きます。つまり首都圏では、どんな単純作業であろうとも時給1000円は払わないと人が雇えない状況になっています。

ダイソーも…。止まらぬ値上げ

本当に大変なのは、20年前と比べて最低賃金が1.4倍になっているのに、その人件費の上昇分を価格に転嫁することができない中小製造業です。

 

原材料費と人件費がともに上昇しているのですから、それらは最終的に商品価格に転嫁せざるを得なくなり、今後はインフレがますます進むことが予想されます。

 

さらに懸念されるのが、製品価格の値上げをできない企業が、生産のためのモノやヒトを十分に獲得できなくなることです。つまりモノ不足とヒト不足は生産能力の低下をもたらして、最終的には企業の成長を阻害し倒産へのレールを敷いてしまいます。これこそが企業にとって最も恐ろしいモノ不足とヒト不足の帰結です。

 

バブル景気がはじけてからの30年間、日本の物価や賃金はほとんど上がっていないように感じられますが、実は気づきにくいところでインフレは起きています。

 

100円ショップの先駆けであるダイソーも例外ではありません。1号店がオープンした1991年から30年間、商品の価格は100円のまま変わらないようにも思えますが、よく見ると100円ショップの棚に300円や500円、1000円といった商品が増えてきているのです。またスーパーやコンビニなどで売られている菓子や飲料のなかには、価格はそのままであっても内容量が少しずつ減っているものもあり、これは実質的な値上げといえます。

 

そして、本格的なインフレが来るのはこれからです。

 

2021年までは団塊の世代もまだ後期高齢者に入らず、働く人も多かったためにヒト不足の問題も目立たなかったかもしれません。一方、新卒採用の現場では「人がなかなか採用できない」という声が日増しに大きくなっています。従来と同額の賃金を提示しているだけでは、人材獲得競争に勝てないのです。

 

※本連載は、2022年9月27日発売の書籍『インフレ時代を生き残る 下請け製造業のための劇的価格交渉術』から抜粋したものです。その後の制度改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

インフレ時代を生き残る 下請け製造業のための劇的価格交渉術

インフレ時代を生き残る 下請け製造業のための劇的価格交渉術

大場 正樹

幻冬舎メディアコンサルティング

バブル崩壊から30年、デフレが続いた日本を未曾有のインフレが襲う。 「値上げできない」という思い込みからの脱却が 原材料価格の高騰に苦しむ下請け製造業の活路を拓く。 これまで700社を超える中小製造業の経営改善…

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