「値上げ」は“妥当な理由”がある今、交渉すべし
変動費スライド制※の交渉を成立させるためには、入念な準備が必要です。取引先を納得させられるような説得力のあるエビデンス(根拠)を集めましょう。また説得力のある根拠を用意するのは大前提ですが、実際の交渉においては、できるだけ下手に出て丁寧にお願いすることを忘れないようにしてください。
変動費スライド制の交渉をするときには、それが自社の責任によるものではなく、外部環境の変化など自社ではどうしようもないことに理由があると訴えることです。プライベートの人間関係であれば他責発言は良い印象をもたらしませんが、会社対会社の交渉では自責を口にすると不利になってしまいます。実際、値上げをせざるを得ないのは自社の利益のためではなく、外部要因に突き動かされてのことです。
例えば、原材料費がこれだけ上がっているからとか、電力費やガソリン代などがこれだけ上がっているからとか、人件費がこれだけ上がっているからとか、理由は外部に求めることができます。
そのような理由を用意せずに、ただ「値上げさせてください」と交渉しても「ノー」と言われて終わりです。ですが、「本当に申し訳ないんですけど、原材料費が10万円値上がりしているので、これまでは努力して吸収してきたのですが、もう限界です。今後も値上がりしそうなので、来月から変動費に合わせて製品価格も値上げさせていただけませんか?」と明確な理由を述べながら交渉すれば、ただちに「ノー」と言われることはないでしょう。
※大まかにいうと、製品の販売価格は変動費と付加価値額で構成されています。この販売価格を式で表すと、次のようになります。
・販売価格=変動費+付加価値額 ・変動費=数量×単価
この変動費を構成する「数量×単価」のうち、単価は市況によって変わり、しかも今後はインフレにより上昇していきます。その上昇した分を販売価格へ自動的に反映する契約が、著者の提案する変動費スライド制です。
但しエビデンスを求められる可能性は高い…
ただし、「その理由の証拠となるデータを示してくれ」と言われる可能性は高いです。これはなぜかというと、交渉相手もまた決裁権をもっていないことが多く、上司に対してエビデンスを示さなければ社内で決裁を取れないからです。
もちろん取引先が中小企業で、社長に直接交渉できるようなツーカーの関係であれば、エビデンスなどなくとも「よっしゃ、分かった」で終わることもあるかも知れません。しかし相手が一定規模以上の会社であれば、そんなことは起きません。決裁権をもたない資材担当者がいる場合、その人の社内的な立場が悪くならないように、資料を丁寧に用意して社内交渉がスムーズに進むようにアシストしてあげなければならないのです。
さらにいうなら、顧客企業のその先にも、顧客がいるはずです。エンドユーザー企業かも知れませんし、一般消費者に直接販売するメーカーかも知れません。自社にとっての顧客がその先の取引先にも説明できるよう、アシストしなければなりません。