(※写真はイメージです/PIXTA)

辞めない社員を育てるには、社員個々人へのアプローチだけでなく、「組織」も重要です。大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より、「辞めない社員を育てるリーダーのたたずまい」を見ていきましょう。小学校長を経て、現在は大学教授&薬膳専門料理店主、さらに企業研修や経営者向け勉強会の講師など、異色の経歴を持つ筆者が、自らの経験を基に解説します。

 

「一見、怖そうな人」ほど実はあまり怖くない

「やってみせる」というのが一番意味があることです。

 

どんなトラブルでも、淡々と対応できる人がいます。公立学校では日々、本当にいろいろな問題が持ち上がります。私の見るところ、力がある人は、つくろう必要はなく、自然体で対応しています。

 

めっきは、簡単にはがれるものです。誰もが「すごい」という人は、本当に普通のたたずまいをしていました。

 

私の経験では、一見、怖そうに見える人は実はそれほど怖くありません。凄みがある人は、むしろ、にこにこしている人で、そういう人の方が実は怖いのです。実力がある人ほど、自然体でつくろわないものです。

 

しかし、中には、自分を大きく見せたがる人もいます。

 

ある時、学校に怒鳴りこんできた人がいました。「俺はこのあたりでは『顔』だ。俺を知らないのか。誰もが知るあの親分にはお世話になっているんだ」といってすごまれたことがあります。

 

その親分は、昔、近所にいた人だったので、すぐに電話して聞いてみました。こういう人が来て、怒鳴りこんでいるんだけど、と。

 

「そんな人知らないよ」

 

それが答えでした。小心の人ほどよく吠えます。この人は小心なんだなあ、と思いました。虎の威を借ることで自分を大きく見せることに専心しているのは、弱い人です。

「リーダーがやってみせる」のが一番効果的

弱い人は、実は不安を常に抱えています。

 

そういう人には、「怖がらなくても、いいんだよ」と教えてあげるとよいです。学校の先生の中には、授業が怖くて、子どもたちの前に出られない人も実はいます。また、逆に自信満々で、独り善がりの授業をする先生もいます。

 

私はそうした先生たちの前で、「いいかい、見ていてごらん」と授業をやってみることにしていました。けっして上手な授業ではありません。しかし、子どもたちの目を見て、真剣に向き合う姿を「やってみせる」ことで、自信を持ってもらいたいと思い、何度も模範授業を行いました。

 

もしあなたが辞めない社員を育てたいと思うなら、「同苦」(その人が抱えている悩みや苦しみに寄り添ってみる)の立場で、自分だったらどうするか「やってみせる」ことが、その人の心を開くことにつながります。

 

元帥海軍大将の山本五十六の名言「やってみせ」から始まる一連の言葉は、誰しもどこかで聞いたことがあるものだと思いますが、ここにあるリーダーの懐の深さと愛情には学ぶべきものがあります。相手を認めて、信じて、育てるという心と謙虚さから、私たちも学びませんか。

 

【図表】やってみせるが一番効果的

いざという時はリーダーが「腹構え」を持つ

これは知り合いの校長から聞いた話です。実際のエピソードを少し脚色しています。

 

ある子どもの親が借金をしていて、その取り立てが学校に来たことがありました。

 

事務室から、「借金の取り立てが来ているが、どうしたらよいか」と校長に相談がありました。おたくの学校の子どもの親が借金をしており、お金を返してくれるまで、てこでも動かないとのことで、まずその校長が話を聞きました。

 

一通りの説明があった後で、「あなたの学校の子どもたちが、この先も無事だと思うか」と言って、帰っていったとのことです。

 

この発言は看過できません。学校の責任者である校長としては子どものことが心配です。

 

その人は、教育委員会にもすぐに報告を入れましたが、案の定というか、「特に対応はできない」ということでした。仕方がないので、校長仲間の私のところへ連絡がありました。

 

私は、友人の校長に「腹構えを持て」とアドバイスしました。

 

と同時に、たまたま、警察に知り合いがいたので事情を説明したところ、すぐに「パトカーを回すから」と対応してくれました。

 

その次は保護者にどう話すかが問題です。

 

通学路にパトカーが巡回していると、保護者や地域の人たちは心配になります。そこで、私がアドバイスをした校長は、「校区に不審者が出ている」と説明し、教職員も手分けして下校時にパトロールをしました。

 

保護者にも、可能な限り、「迎えにきてください」と連絡をしたところ、いったいどういうことか、さらに詳しく教えてほしいという保護者が出てきました。

 

学校の周りに不審者が出たという情報があったので、という説明しかできませんでしたが、ともあれ、できる限りの安全確保に努めたということです。

 

さて、発端となった保護者にも、その校長は話をしました。こういう人が来て、対応しなければいけないと話したところ、「その人とは絶縁しているので、事情は分からないし、私には責任がない」と話したとのことです。しかし、実際にそのことが原因で、子どもたちが危険にさらされているのです。

 

その保護者は「私は関係ない」と言い続けたとのことですが、何度話しても「私は関係ない」というスタンスは変わりませんでした。それは違うのではないかと校長は話したとのことです。

「リーダーの腹構えの有無」がその後の明暗を分ける

学校や組織においては、こうした危機の際、無責任な体質・体制に囲まれて孤立化することがあります。リーダーとしては「腹構えを持つ」ことで、いかなる時にも逃げない態勢を取らないといけません。ここで、リーダーが弱腰になったり、逃げの姿勢を見せると、とたんに状況は悪くなります。

 

以前、北海道で遊覧船が沈没する事故がありましたが、これもさまざまなレベルでの無責任が重なった結果、起きた事故だと思われます。

 

その場にいる人が、持ち場に応じて、やれるべき手を打たないといけないのです。つまり、責任を取らないといけない。

 

「腹構え」がないところでは、リーダーもフォロアーも無責任体質になります。

 

これをリーダーが持ち、フォロアーや周りの人たちに責任について教えないと組織はまとまりません。起きなくてもよい事故が起きてしまいます。

 

 

大久保 俊輝

麗澤大学 特任教授、大学教職センター長

亜細亜大学特任教授

モラロジー道徳教育財団特任教授

 

1954年生まれ。建設省建設大学校中央訓練所修了。富士短期大学卒業。玉川大学(通信)にて教員免許状取得。千葉県内の小学校教員、教頭、校長を歴任。定年退職後、千葉県総合教育センターにて新任校長育成に従事。文教大学非常勤講師等を経て現職。

不登校児童生徒、障害を持つ子どもたちの支援活動、教職を目指す学生への指導に加えて、企業向け講演活動や経営者に向けた講話を数多くこなす。

著書に『わが子が「学校に行きたくない」と言ったら─不登校解決レシピ』(公益財団法人モラロジー道徳教育財団)、毎週土曜日更新のYouTube番組に「サタモラ(Saturday moral)」(公益財団法人 モラロジー道徳教育財団)、WEB連載に日本教育新聞「一刀両断」などがある。

 

※本連載は、大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より一部を抜粋・再編集したものです。

辞めない社員の育て方

辞めない社員の育て方

大久保 俊輝

時事通信社

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