(※写真はイメージです/PIXTA)

辞めない社員を育てるには、社員個々人へのアプローチだけではなく、よい職場環境を作ることも欠かせません。自由に意見が出せる職場にすることも、リーダーが行うべき環境づくりの一つです。大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より、意見を引き出すコツを見ていきましょう。メンバーに自分の意見を持ってもらい、その意見を引き出すには、どうすればよいのでしょうか?

 

大学で人気の「批判させる講義」

私が大学で教えている中で、人気の授業があります。私があるサイトで連載しているコラムを「批判せよ」、という授業です。自分の連載コラムを学生に読ませて、判断させています。

 

これが面白いのです。

 

学生たちは、自分たちを指導している特任教授を批判せよ、と言われて、最初はビックリします。真面目な学生は「そんなことしていいんですか」と言いますし、ちょっとやんちゃな学生は嬉しそうに何を書こうかと目を輝かせます。

自分なりの意見を持つには「自分ごと」にするのが重要

取り組み始めると、学生たちは真剣になります。

 

私は、自分なりによく考えて「いいこと書いているな」と自画自賛したくなるコラムがあるのですが、学生たちの感性で、厳しく反論されることもあります。時々は、少しへこむこともありますが、そうか、そんなふうに読めるのかと感じることも多いのです。

 

「先生が言うようには決めつけてはいけないと思う」という意見がありました。

 

こういう意見が出てくると、リアルの授業でも、オンライン授業でも、リズムと呼吸が出てきます。寝ている学生はいません。出席率が高い授業です。

 

コラムでは、最近起きた事件などを題材にして、私はどう考えたかということを毎回書いています。それについて、学生たちも「自分ごと」として、「批判せよ」という趣旨を理解して考えていきます。

 

多くの人に賛同していだけるのではないかと思いますが、また私自身の経験でも、そうなのですが、ただ聞かされるだけの授業は興味も湧かないし、つまらないものです。うのみにすることを強いる授業は眠たくなるものです。

 

それ、ほんとかな、自分はそう考えないけどな。そう思うと、よく入ってくるものではないでしょうか。自分なりの意見を持つことがとても大切で、その意見を発表し、周りの人の意見を聴けることが、さらに重要なのです。

 

同じ教室にいる同世代の仲間が、「先生の意見は違うと思います」と言うから面白いのであって、そこで興味が生まれ、この授業は面白い! となっているようです。

 

学校の道徳の授業では、聖人君子の正論を言われます。「それはもちろんその通りだ。分かっているよ、それは大切だ」となります。しかし、そこで止まってしまいます。むしろ、人は失敗する、それが魅力ではないかと私は考えます。

 

私も全力で考えて、コラムを発表しますが、それが完璧だとは全く思いません。学生たちの若い感性で批判されることで、思ってもみなかったことに気が付くことがあります。

 

人は本音に接すると活性化するものなのです。そして、そうした本質的な学びや、意見表明、議論が、組織や場を活性化するのです。

 

「批判せよ」にぜひ取り組んでみてください。

あえて「お言葉ですが…」と言ってもらう

「お言葉ですが」が言えるかどうか。これが大切です。

 

「前の人と同じです」となり、自分の意見が持てない場合、この言葉から始めるように仕向けてみるとよいでしょう。

 

相手に敬意を持ちつつ、反対意見を言いますよという切り出し方になるので、そこに続く言葉を考えなくてはと脳も動き出します。

 

「お言葉ですが」をゲームにして、順番に、前の人の意見をあえて否定・批評していくという思考訓練にしてもよいと思います。

意見が出ない組織、意見を出させる組織の分かれ目

「忖度」という言葉が話題になったことがありました。

 

本来の「忖度」という言葉は、良い意味で思いやるということですが、今は権力を持つ人の虎の尾を踏まないように、事実を曲げたり、あえて報告をしなかったりと、消極的かつ後ろ向きな意味合いで使われることが多いように感じます。

 

しかし、そのような会社や組織は若い人たちにとって魅力的でしょうか。また、将来性があると言えるでしょうか。

 

上役に対して、周りがきちんと物申せる環境にあるか。真価はそこにあります。

 

組織において多様な意見が出せないとすれば問題です。声の大きな人、立場が上の人が賛同したら、ほかの意見が認められなくなるとなれば、それはよくない組織です。

 

意見が「前の人と同じです」と金太郎飴になっているのは、「お言葉ですが」がなくなっているからです。自由に意見が出せない組織になっていたり、批判的思考が訓練されていないのです。

 

私の授業では、私が連載しているコラムを批判させています。

 

大学生もとても鋭い意見を述べる時があります。私はすかさず、「いいこと言ったねえ」と褒めます。大学生は、自分自身が否定されても、それを認めて褒める先生がいるんだと驚きが生まれます。しかし、そうやって師を乗り越えることから新しい価値のあるものが生まれてくるのではないでしょうか。

 

かつて、私も校長を務めていた時、「お言葉ですが」と言ってもらうことを周りの先生によくお願いしていました。ただし、これはお願いする方も、意見を言う方も、腹が決まっていないと言えません。熟考して「違う」とはっきり言い切るにはよく考えないといけないし、勇気も要ります。

 

イエスマンになるのは簡単です。考えなければいいのですから。

 

「お言葉ですが」を言うためには常に考えていなければなりません。

 

それから、「お言葉ですが」は、青年の特権です。若いうちに、どんどん物申せるようになるように訓練させておきたいものです。

 

 

大久保 俊輝

麗澤大学 特任教授、大学教職センター長

亜細亜大学特任教授

モラロジー道徳教育財団特任教授

 

1954年生まれ。建設省建設大学校中央訓練所修了。富士短期大学卒業。玉川大学(通信)にて教員免許状取得。千葉県内の小学校教員、教頭、校長を歴任。定年退職後、千葉県総合教育センターにて新任校長育成に従事。文教大学非常勤講師等を経て現職。

不登校児童生徒、障害を持つ子どもたちの支援活動、教職を目指す学生への指導に加えて、企業向け講演活動や経営者に向けた講話を数多くこなす。

著書に『わが子が「学校に行きたくない」と言ったら─不登校解決レシピ』(公益財団法人モラロジー道徳教育財団)、毎週土曜日更新のYouTube番組に「サタモラ(Saturday moral)」(公益財団法人 モラロジー道徳教育財団)、WEB連載に日本教育新聞「一刀両断」などがある。

※本連載は、大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より一部を抜粋・再編集したものです。

辞めない社員の育て方

辞めない社員の育て方

大久保 俊輝

時事通信社

若い人の気持ちが分からない、コミュニケーションが取れない…そんな悩みはありませんか。 人は嬉しくて、会いたい人のところに集まります。 嫌がられない「おせっかい」のやりかたとは? 異色の教育者が「辞めない社員…

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