(※写真はイメージです/PIXTA)

辞めない社員を育てるには、社員個々人へのアプローチだけでなく、「組織」も重要です。大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より、『「ほうれんそう」は有害なこともある』を見ていきましょう。小学校長を経て、現在は大学教授&薬膳専門料理店主、さらに企業研修や経営者向け勉強会の講師など、異色の経歴を持つ筆者が、自らの経験を基に解説します。

 

「ほうれんそう」は有害なこともある

時と場合によっては、「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)をしない方がよいことがあります。

 

形を整えるだけの「ほうれんそう」はむしろ有害です。これによって事務仕事ばかりが増えて、時間が取られます。本当にしなくてはいけないことができなくなることがあります。これでは本末転倒です。何のためにするかが、大切なのです。

 

■優先順位を間違えない。いい報告、ダメな報告の差

「報告」で、その人の力量が見えてきます。力量がある人は、「報告」の順番を間違えません。

 

喫緊の課題から報告すべきところで、そもそもの起こりから、時系列で長々と説明を始めてしまう人がいます。これはダメです。

 

「報告」で大切なのは、重要な順番の価値付けができて、順番を決めることです。

 

校長時代、私は「報告は悪いことからしなさい」と常に教員に話していました。組織においては、その人だけの問題で済まないことがあります。

 

特に、問題があること、早めに対応しなくてはいけないことは、腹をくくって、しっかりと優先順位を間違えずに対応すべきなのですが、自分を守るために早めの報告を怠り、組織全体をだめにしてしまう人がいます。ここに、その人の地金が出てきてしまいます。

 

逆に良い報告をしたがる人もいます。しかしそれは「評価をもらいたい人」。

 

もちろん、そういう人には「よくできたね」と褒めます。しかし、褒められて動く人はやがて、褒められること自体が目的になっていくことがあります。

 

良い「報告」には、気を付けないといけないのです。

 

出所:大久保俊輝著『辞めない社員の育て方』(時事通信社)
【図表】有害なホウレンソウ(報告・連絡・相談) 出所:大久保俊輝著『辞めない社員の育て方』(時事通信社)

小学校長に直面した「一刻を争う事態」

リーダーは、正しい決断を瞬時に求められます。

 

わたしは小学校長の時に、さまざまな事案に直面しました。周りの小学校長と比べて私は手が早いと感心されることが多かったが、それはおそらく建大の頃に学んだことや、建設現場などの事故対応をよく見てきた経験が生きているからだと思います。

 

こんな事件がありました。

 

金曜日のお昼前、校長室に栄養士さんが血相を変えて飛び込んできました。

 

「校長、ダムウェーターのカギを持っていませんか」。そんなに慌てて急にどうしたの? と聞くと、4階にある調理室から各階に給食の大型缶を運ぶ小型荷物専用昇降機(ダムウェーター)の中に調理員が落ちたのだという。これは大変だと私も慌てて現場に向かいました。

 

現場に向かいながら聞き取りをします。4階から1階に落ちた。何で落ちたの? 分かりません。給食の缶と一緒に落ちたようです。

 

1階のダムウェーターの外側に教頭がいました。中に調理員がいるといいます。ドンドンと扉を叩いて、大丈夫か、痛いところはないかと声を掛けると、意外としっかりした声で、頭をぶつけた。少し血が出ているようだが、大丈夫とのことでした。

 

しかし、大丈夫とはいっても4階から1階への落下です。どこに重篤なダメージを受けているかは分かりません。一刻も早く助け出さないといけません。

 

■最優先すべきは人命救助なのに…

遠くから救急車やパトカーのサイレンが聞こえて、次第に、校庭に警察の車両や救急車が集まってきました。警察官がやって来て、何が起きたのですか、落ちたのは誰ですか、その人は何歳ですかと聞き取りを始めます。まだ中に人が入っている。そちらを助けるのが聞き取りより先だろうと思いましたが、重ねて救急隊員も同じことを聞いてきました。何が起きたのですか、その人の名前は、年齢は? 別の人にそちらの対応は任せました。

 

消防隊員が「ダムウェーターを壊しますが、いいですか?」と質問します。いいに決まっています。その間に私はどこから手を付ければ開けられるのか確認するために、自分の携帯で保守管理会社に電話すると事務員が出て、保守員しかその構造については分からないといいました。それならと、保守員の携帯の番号を聞き出して、保守員本人に連絡を取りました。聞くと、外側から扉を開けることはできないといいます。

 

しかし、中から開けられることが分かったので、上の階から中にいる調理員にペンライトをひもをつけて少しずつ下ろし、本人に渡しました。開ける方法を外側から伝えて、何とか、自力で扉を開いて調理員が出てきました。

 

すぐに救急車で調理員を病院に運んでもらいました。

 

何とか事なきを得たのですが、まだ中に調理員がいるのに、警察も消防もその人は誰ですか、何歳ですか、と同じことを聞くのに心底あきれました。一刻を争う時に、書類を作ることは先ではないだろう。判断が間違っています。

 

確かに「報告・連絡・相談」は基本だけれども、それより人命救出が最優先です。

 

手続き重視、自己保身、縦割りになりすぎていないか。人命が大切だといっても、最初の状況判断で優先度を間違えているのではないか。強い違和感を覚えました。

事後の対応を抜かりなく

学校で何か問題が起きると教育委員会への報告が必要になります。すぐに教委へ直接赴き、説明を行いました。教委からはメディアへの対応も必要になるので、報告書(メモ)を作成して渡しました。

 

金曜日のお昼の事故だったので、細かいことですが、週明け月曜日の給食の中身も変えないといけません。PTAへの説明や保護者への説明会も必要です。そういう細かい調整はたくさんあります。しかし、事案自体は2時ごろに収まり、教委への報告も含めて定時にはやるべきことをすべて終えて退勤しました。

 

事故において急ぐべき対応、やることが分かっているので、優先順位を間違えず、やるべきことをやれば、あとはけがをした人がたいしたことないようにとか安全を願うことくらいしかやれることはありません。

 

■ヒヤリハットの情報こそ大切。後で発覚した「複数の類似事故」

後日譚として、校長会で「こういう事故がありました」と説明したら、実はうちの学校でも人は落ちていないが、似たような荷物落下事故があったと話した校長が数人いました。何で情報を共有してくれなかったのかとその場で抗議しました。事故は荷物を乗せる棚が上がってきていなくて、給食の缶を乗せたキャスターを離すことも引き上げることもできず、一緒に落ちてしまったことで起きました。故障の原因は「指さし確認」だけで、点検時に実際に動かして不具合の徴候を見逃していたことがあったことが、後日分かりました。

 

ダムウェーターは小さな昇降スペースのため、落下時に空気抵抗か何かがあり、すとんと1階まで落ちずに、少し緩やかに落ちたらしく、幸いにして人命に関わることとならなかったことだけがよかったのですが、事故が起きる前にできることはあったと今でも思います。

 

 

大久保 俊輝

麗澤大学 特任教授、大学教職センター長

亜細亜大学特任教授

モラロジー道徳教育財団特任教授

 

1954年生まれ。建設省建設大学校中央訓練所修了。富士短期大学卒業。玉川大学(通信)にて教員免許状取得。千葉県内の小学校教員、教頭、校長を歴任。定年退職後、千葉県総合教育センターにて新任校長育成に従事。文教大学非常勤講師等を経て現職。

不登校児童生徒、障害を持つ子どもたちの支援活動、教職を目指す学生への指導に加えて、企業向け講演活動や経営者に向けた講話を数多くこなす。

著書に『わが子が「学校に行きたくない」と言ったら─不登校解決レシピ』(公益財団法人モラロジー道徳教育財団)、毎週土曜日更新のYouTube番組に「サタモラ(Saturday moral)」(公益財団法人 モラロジー道徳教育財団)、WEB連載に日本教育新聞「一刀両断」などがある。

 

※本連載は、大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より一部を抜粋・再編集したものです。

辞めない社員の育て方

辞めない社員の育て方

大久保 俊輝

時事通信社

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