(※写真はイメージです/PIXTA)

辞めない社員を育てるには、社員個々人へのアプローチだけでなく、「組織づくり」も重要です。大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より、「学歴より大切なもの」「素を出す」を見ていきましょう。小学校長を経て、現在は大学教授&薬膳専門料理店主、さらに企業研修や経営者向け勉強会の講師など、異色の経歴を持つ筆者が、自らの経験を基に解説します。

 

学歴より「学習歴」と「人間的魅力」の時代

学歴とは何でしょうか。

 

今は子どもの数が減り、昔ほど「受験戦争」の激化が言われなくなりましたが、一部の子どもたちは今でも中学受験や、早ければ小学校の「お受験」に巻き込まれています。

 

一方で、大学入試も子どもの数が減り、かつてより易化してきたと思われますが、よかれと思って、親の中には、自らの子を早期から型にはめたり、競争に参入させたりする親もいます。

 

素晴らしい研究をしている大学や、そこでしか学べない専門性は当然あります。しかし、子どもの数が減り、競争率が下がってくる中で、ただ、やみくもに大学を目指すことはそれほど重要な意味を持つものではなくなりつつあります。

 

どこの学校を出ましたか? ということよりも、あなたはこれまで何を学習してきて、今、何ができるのですか? が強く問われるようになっています。

 

また、リスキリングということも言われるようになり、時代に応じた、新しいスキルも身に付けていかないといけない時代です。

 

さらに言えば、今の時代はAIの活用も増え、かつてのように知識があるか、何かを知っているかではなく、どういった考え方ができて、どのように取り組むことができるか、それを継続することができるかどうかが評価の対象となってきています。

 

専門性においても、さらに全体性が必要です。専門性に加えて、俯瞰する力がないと全体性は出てきません。

 

コロナの時代で、専門家がたくさん出てきましたが、人々に不安しか与えていません。安心を与える専門家はいないのだろうかと思います。難しいことを易しく説くのが専門家です。難しいことをそのまま話すのは偽善だと私は思います。

辞めない社員の育成にも「人を惹きつける魅力」が必要

人間的魅力がないところには、人は集まりません。

 

私の授業は、いろんな質問で突っ込んでいくので面白いと学生たちに言われています。「日本教育新聞」で私が連載をしているコラムを使い、「このコラムを批判しましょう」という授業は特に人気です。知識は使ってなんぼだと私は思っています。使うために知識があるわけで、その知識は、今あるものを乗り越える、よりよい考えを生み出すために使われるべきです。

 

こういうことを勉強してきた、専攻してきたということは確かに学歴で分かります。しかし学歴が人間性とつながっていません。人間性とつながった使える知識、それがないと、卒業証書も単なる薄紙みたいなもので終わってしまいます。それに加えて、先行き不透明な時代においては、大きな会社や組織に入れば、その先は安定的で将来が約束されたなどという場所はほとんどありません。

 

今、大学教育に携わって学生に尋ねてみると「尊敬できる人が少ない」と言います。とても残念なことです。憧れる人、かっこいいなあという人が周りにいないのです。強いて言えばお笑い芸人やスポーツ選手でしょうか。しかし、それもまた消費の対象であって、なりたい自分に近い存在ではありません。仕事の先輩として、あなた自身があこがれられる存在になってみませんか。

素を出す、素を出させる

苦言を呈すると、自分も相手も素(本音)が出ます。そういう時に、人としての魅力が出てくるものです。

 

あなたはそういうことを考えていたのか、とはっとさせられる瞬間があります。
 

私は、タレントの久本雅美さんが好きなのですが、彼女がかつて売れなかった時から、一躍、人気者に押し上げられたきっかけは、「素を出せ」と言われて、自分の素を出していったことによるという話をテレビで観ました。

 

共感を呼ぶ本音を語れたから人気者になれたのでしょう。それは、素直な心で「素」を出しているから、強く、そして本物の気持ちだと相手に思ってもらえるのだと思います。

 

そして、そう思ったら、自分から動いてみることが大切です。実際に、素を出した久本さんが人気者になれたのは、行動できたからです。

一緒に励まし合う

本当は、久本さんのように、言われたことを自分なりに試行錯誤して、一人の力で会得していくのが一番なのですが、なかなかそれは難しいことです。

 

今は師弟同行(先生と生徒が共に励まし合いながら助け合う)がない時代です。

 

かつて、元帥海軍大将の山本五十六が言ったように、「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」をしてくれる先生役の人が必要なのですが、なかなかめぐり会うことが難しいものです。

 

むしろ「言って聞かせて」ばかりが多くはないでしょうか。それは無責任な評論家です。そんな評論家は何の役にも立ちません。

 

「やってみせ」という実力、「させてみて」という余裕、「褒めてやらねば」と思う注意力と関心、目の前の人に対する強い関心と粘り強く関わることがないと、なかなか人は変わりません。

 

相手と対峙して、フィフティ・フィフティで、しかもフラットな関係で、相手と向き合うと、その人の度量が見えてきます。これは年齢・性別・出身地に関わるものではありません。その人自身の器の大きさです。

上の人にも意見を言う

あなた自身の素(本音)を、時にはあなたより立場が上の人に積極的に見せてください。

 

私は、現在所属している組織の理事長に意見を言ったことがあります。そんなことを言うのは私が初めてだったらしいのですが、素で問うと、周りがシーンとなりました。しかし、理事長はしっかりと私の質問に答えてくださいました。私は感銘を受けました。

 

私は、若い人たちは、本当に正しいことや大切なことを感じ取れる感性を持っていると信じています。そういう若い人たちが、上の世代を見て、共感して、共に学んでいきたいと思わせるような存在となっているでしょうか。

 

私は自分の素を出せているだろうか、と日々、自問しながら毎日を過ごしています。

 

 

大久保 俊輝

麗澤大学 特任教授、大学教職センター長

亜細亜大学特任教授

モラロジー道徳教育財団特任教授

 

1954年生まれ。建設省建設大学校中央訓練所修了。富士短期大学卒業。玉川大学(通信)にて教員免許状取得。千葉県内の小学校教員、教頭、校長を歴任。定年退職後、千葉県総合教育センターにて新任校長育成に従事。文教大学非常勤講師等を経て現職。

不登校児童生徒、障害を持つ子どもたちの支援活動、教職を目指す学生への指導に加えて、企業向け講演活動や経営者に向けた講話を数多くこなす。

著書に『わが子が「学校に行きたくない」と言ったら─不登校解決レシピ』(公益財団法人モラロジー道徳教育財団)、毎週土曜日更新のYouTube番組に「サタモラ(Saturday moral)」(公益財団法人 モラロジー道徳教育財団)、WEB連載に日本教育新聞「一刀両断」などがある。

 

※本連載は、大久保俊輝氏の著書『辞めない社員の育て方』(時事通信社)より一部を抜粋・再編集したものです。

辞めない社員の育て方

辞めない社員の育て方

大久保 俊輝

時事通信社

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