Amazon台頭で「町の本屋」は壊滅状態へ…Amazonが「次の犠牲者」に選んだ “業界”は

Amazon台頭で「町の本屋」は壊滅状態へ…Amazonが「次の犠牲者」に選んだ “業界”は
(※写真はイメージです/PIXTA)

「本屋」の次にAmazon参入の犠牲者となる業界、その筆頭候補は「薬局」です。薬局業界をとりまく現状やこれから待ち受ける試練について、業界人の筆者が解説します。

苦境におかれる「薬局業界」だが…真の試練はこれから

調剤報酬改定による調剤報酬点数の低下や、新型コロナウイルスの影響による患者の受診控えなどにより薬局業界は苦しい状況におかれています。そして、将来処方せん枚数が頭打ちになると業界はさらに追い込まれていくはずです。

 

このような状況のなかで、薬局は新たな問題にも直面しています。それは海の向こうからやってくるAmazonです。

Amazon台頭の初の犠牲者となった「本屋」

Amazonの最大の武器は利便性です。インターネット上で必要な商品を探して注文すると多くの場合翌日や翌々日には自宅まで届くという仕組みは、私たちの生活のなかに入り込んでいます。そしてAmazonはその圧倒的な利便性を武器に、既存の業態を次々に変化させてきました。

 

Amazonの最初の事業は本のインターネット販売でした。オンライン書店として登場したAmazonは、ホームページの記載によると、2000年11月に日本語版ECサイトを開設した際には、洋書・和書合わせて約170万タイトルを取りそろえていました。

 

突然登場したオンライン書店の便利さに、人々は夢中になりました。それまでは自分の足で欲しい本が見つかるまであちこち探し回らなければならなかったのですが、オンライン書店では足を棒にして歩き回る必要がなかったからです。サイト上を検索して目当ての本を見つけたら、クリックしてカートに入れて決済して完了、ものの数分で本の購入が済んでしまいます。

 

おまけに、Amazonでは自分が購入した本のデータを基に、自分の興味がありそうなお勧め本も表示されます。次に読みたい本が決まっていない人にとってはとても便利で魅力的な仕組みがそろっているのです。

 

リアル書店よりもAmazonが勝っている点に在庫数も挙げられます。リアル書店ではよほどの大型店であっても何万冊もの在庫を常時抱えることは困難ですが、オンライン書店であれば巨大な倉庫を用意してそこに何万冊でも在庫をもつことができます。そのため何万種類もの本のなかから自分の欲しいものを選んで購入するには、実店舗よりもオンライン書店のほうが適しています。かつてはそれぞれの町に本屋があるのは当たり前の光景でしたが、いまや駅前の一等地などよほどの好条件がそろわなければ、町の本屋は生き残ることができないのが現状なのです。

 

日本の書店数は1999年には2万2296店でしたが、2017年には1万2026店にまで減少しています(アルメディア調べ)。『出版の崩壊とアマゾン』では書店数減少について、2000年代前半までは書店間の競争や売上減少、書店チェーンの大型出店による地方の老舗書店を中心にした廃業が多いと述べられています。しかし2005年頃からの廃業には在庫商品の豊富さや送料無料、注文の簡便さなどの強みをもつAmazonの存在が大きく影響しているというのです。

Amazonが次に狙いを定める業界こそが「薬局」

こうして本屋はAmazon台頭による初の犠牲者として市場から姿を消しつつあります。『週刊東洋経済』2017年6月24日号「アマゾン膨張」の推計では、2016年の日本におけるAmazonの書籍売上を1500億円と推計しています。一方で同年の紀伊國屋書店の売上は1059億円、丸善ジュンク堂書店は769億円でした(「新文化出版流通データブック2017書店ランキング」『新文化』2017年12月7日号)。

 

そして、オンライン書店としての成功を果たしたAmazonが狙うのは本だけではありません。本での成功を手にしたAmazonは、CDやDVD、ファッション、家電、スポーツ用品、食品・飲料・酒類、日用品などへと取扱品目をどんどん拡大していきました。Amazonは自社の商品を出荷・販売するサービスだけではなく、マーケットプレイスと呼ばれる独自の販売システムも構築していきました。マーケットプレイスとは、さまざまな小売業や卸売業、個人などAmazon以外の出品者が参加できる販売方法です。

 

マーケットプレイスのシステムを構築することによって、Amazonは莫大な仲介手数料を得ることが可能になりました。また、より多くの商品を取り扱うことができるようになり、Amazonで扱っていない商品はほとんどないというような巨大販売システムに成長しました。

 

従来にはない戦略によって目を見張るスピードで成長を遂げてきたAmazonが一網打尽にしようと狙っている次なる業界は、食品や中小企業向け融資、物流、生鮮食品、決済サービスなどいくつかあるといわれていますが、その筆頭がまさに薬局業界なのです。

2018年のピルパック買収の衝撃

すでにアメリカでは、Amazonの薬局業界への進出が始まっています。進出の第一歩となったのは、2018年6月のピルパックの買収です。

 

ピルパックとは2013年に設立された新興企業で、医薬品の個別配送サービスで知られるアメリカのオンライン薬局です。医療用医薬品を一包化し、曜日や服用時間帯ごとに分けて配送するサービスを展開しています。ピルパックは患者が医師から受け取った処方せんをネット上で受け付けて、一包化した処方薬を全米に配送しています。

 

なお一包化とは、服薬のタイミングが同じ複数の医薬品を1つの個包装にまとめることを指します。通常薬局から医薬品を受け取るときは医薬品の種類ごとに袋に入れられていますが、これを医薬品の種類ごとではなく「朝に服薬する分」「昼に服薬する分」「夕方に服薬する分」など1回に飲む分ごとに小分けにするのです。一包化は主に、たくさんの医薬品を服用することで医薬品の管理ができなくなるケースが多い高齢の患者に対して、間違って服薬してしまうことを防ぐために行われます。

 

ピルパック買収は、虎視眈々と薬局業界を狙っていたAmazonが満を持して本格参入してきたことを意味しています。ピルパック買収のあとの2020年11月、ついにAmazonはアメリカでAmazon薬局をスタートさせました。

 

Amazon薬局とは、処方せんに基づいて医療用医薬品を提供するオンライン薬局のことです。処方せんの管理から医薬品の注文、購入、各種保険の登録など一連の行為がすべてオンライン上で完結し、患者のもとにはスピーディーに必要な医薬品が配送されます。18歳以上のAmazon会員であれば誰でも利用でき、プライム会員であれば配送料は無料です。薬剤師による24時間年中無休の電話相談のオプションサービスも整えています。

 

さらにAmazonは提供するAIアシストサービスAlexaで、服薬管理を支援するスキル(機能)を、アメリカの薬局チェーンと共同で開発しました。このスキルでは、ユーザーの処方せん情報をAlexaに読み込ませて服薬のリマインド設定をすることができます。また薬局への処方薬の追加注文をすることも可能です。

 

わずか数年の間に町の本屋を壊滅状態にしたように、Amazon薬局が急拡大して既存の薬局を追い詰めることがないなどとは誰にもいえません。Amazonの進出は、アメリカの薬局業界を震撼させました。日本経済新聞の記事によると、Amazonが処方薬のネット販売を開始したことを受け、アメリカの名だたる薬局チェーンであるウォルグリーン・ブーツ・アライアンスやライト・エイド、CVSヘルスなどの株価は軒並み急落したといいます。

Amazon薬局が日本に上陸するのは時間の問題

世界中に展開するAmazonのターゲットは、当然のことながらアメリカ国内のみにとどまりません。イギリスやカナダ、オーストラリアでも同様の動きがあるほか、インドではすでにAmazon薬局がスタートして市販薬と医療用医薬品の配送をスタートしています。

 

そして、必ず日本にもAmazon薬局が上陸するはずです。毎年約8億2000枚発行される処方せん、そして約7兆8000億円にも上る調剤医療費をAmazonが見過ごすはずがないからです。街角から次々と本屋が姿を消したように、次に消えるのは薬局かもしれません。

 

私は世界中を襲った新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴うオンライン診療・オンライン服薬指導の普及が、日本へのAmazon薬局の進出を後押しすると考えています。

 

新型コロナウイルスの感染拡大下では、日本中で医療機関への受診控えが起こり、それに伴って薬局も来院・来局する患者数が激減しました。それと同時に、非対面で医師や薬剤師と面談できるオンライン診療・オンライン服薬指導が開始されました。

 

2019年に成立した改正薬機法では、もともと2020年9月からオンライン服薬指導をスタートする予定でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によってオンライン診療やオンライン服薬指導に対する国民のニーズが高まり、予定よりも前倒しでオンライン服薬指導が解禁されたのです。オンライン服薬指導の解禁に関して厚生労働省が通達した「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」は、2020年4月10日に発出されたことから「0410対応(0410通知)」と呼ばれています。

 

オンライン服薬指導は制度として解禁されたものの、一気に広がることはありませんでした。厚生労働省によれば、2020年5月~2021年8月にかけての0410対応による服薬指導の実施件数は約36万件で、全処方せんの約0.3~0.6%にとどまっていました。

 

しかしオンライン服薬指導は、特に若い世代を中心に患者ニーズが高いです。デロイトトーマツが発表した「患者の通院やオンライン診療の認知・利用状況に関する調査結果」によると、オンライン服薬指導未経験者の20~50代では男女ともに過半数がオンライン服薬指導を利用したいと回答しており、オンライン機器の操作に問題がない若い世代からは支持されていることが分かります。

 

デロイトトーマツ「患者の通院やオンライン診療の認知・利用状況に関する調査結果」(2021年)を基に作成
[図表1]オンラインサービスの利用意向(未経験者・経験者) デロイトトーマツ「患者の通院やオンライン診療の認知・利用状況に関する調査結果」(2021年)を基に作成

 

デロイトトーマツ「患者の通院やオンライン診療の認知・利用状況に関する調査結果」(2021年)を基に作成
[図表2]オンラインサービスの利用意向(性別・年齢別) デロイトトーマツ「患者の通院やオンライン診療の認知・利用状況に関する調査結果」(2021年)を基に作成

 

また、解禁当初は電話を使った服薬指導が多かったものの、今では電子お薬手帳機能やチャット機能などを搭載したオンライン服薬指導のための専用ツールが充実しつつあります。これらのことから、オンライン服薬指導の実施件数は今後増加し、Amazonが進出しやすい環境ができていくと私は考えています。

 

 

渡部 正之

株式会社メディカルユアーズ 代表取締役社長、薬剤師

 

※本連載は、渡部正之氏の著書『ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

渡部 正之

幻冬舎メディアコンサルティング

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