前回に引き続き、自分のビルの市場ポジションを明確にする「物件評価書」の項目に沿ってチェックしていきましょう。今回のテーマは「エントランス」です。

エントランスは大事な「オフィスの顔」

次に評価したいのはエントランスです。ここでも、入ったときの第一印象は大事です。入ったときに薄暗い、狭苦しい、だらしないなどと感じるようでは、テナントは決まりません。

 

ビルのエントランスは住宅でいえば玄関。つまり、オフィスの顔となる部分ですから、エントランスの印象が悪いと、それだけで下見にきた企業はそのビルを×と評価します。そうした評価を受けていないか、広さはもちろん、明るさ、開放感、清掃の状況、壁面や床面材のグレードや劣化状況など、幅広い観点から全体を見回してみる必要があります。

 

一般に中小規模のオフィスビルのエントランスは貸室部分を多く取ろうと、面積を抑えて造られることが多く、借りる人の気持ちになって見回してみると問題があることもしばしばです。天井が低く、狭い空間に複数のドア、エレベーター、テナントの案内表示、受付あるいは警備室のカウンター、メールボックスなどがある場合には、圧迫感を覚えることすらあります。

 

また、エントランスの設計そのものに加え、メールボックスからはみ出したチラシや郵便物が床に落ちて散らかっていたり、切れかけた電球がちかちかしている、テナントが放置した段ボールが積み重ねられているなど、管理、メンテナンスにも問題がある場合は、これはもう絶望的。ビル経営を根本から見直すつもりでなければ、空室は埋まりません。

デザイン、素材ともに「シンプル」が劣化を防ぐ

ちなみに、設計とメンテナンス、劣化は密接な関係にあります。メンテナンスのしやすい設計もあれば、手入れが面倒で劣化しやすい設計もあるのです。これにはデザイン、素材という2つの問題があります。

 

まず、デザインでは、凹凸のある壁面やデコラティブな飾りの施された柱、天井、シャンデリアなど、複雑な形状は手入れが面倒です。凹凸があると掃除に時間がかかりますし、埃などがたまりやすく、清潔感を保つのが難しくなります。造った人の好みや時代の流行などが取り入れられている場合には、時間が経つにつれ、古臭く見えるようにもなります。

 

異素材が組み合わされた設計もマイナスです。単一の素材で造られている床なら掃除方法や使用する洗剤などを変えることなく、一度にきれいにできますが、異素材が使われている場合、そこだけ別のやり方をしなくてはならず、時間も手間もかかります。リフォームする際にも少量ずつ多種の素材を手配することになり、コストがかかります。素材でいえば、容易に取り替え、張り替えができる素材がベストなのです。

 

つまり、デザイン、素材ともにシンプルな設計が手入れも楽で劣化しにくいわけで、最近、ガラス張りのシンプルなビルが増えているのは、そのあたりが認識されるようになってきたからかもしれません。ただし、ガラス張りのビルは建設費が高く、また断熱性能が落ちるため、冷暖房の機能を上げる必要もあり、シンプルにしたいからガラス張りにすればいいというものではありません。

 

次回は「共用部分」「セキュリティ」について見ていきましょう。

本連載は、2010年12月21日刊行の書籍『空室を抱える中小オフィスビルオーナーのための満室ビル経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

佐々木 泰樹

幻冬舎メディアコンサルティング

サブプライム問題、リーマンショックを経て、悪化した賃貸オフィスビル市場は依然厳しく、地方都市では都心以上に苦しい状況にあります。 そのような中、特に中小規模のオフィスビルは、バブル期以前に建った築20年以上のビル…

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