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中小企業や上場企業オーナーが抱える問題の中でも事業承継や相続は関心の大きなところでしょう。実際に、「将来、相続税はいくらかかるのだろう?」「相続が起きてしまったら残された家族が揉めないだろうか?」といった心配事は尽きないはずです。特に業績の好調な企業や社歴が長い中小企業は、相続税の対象となる自社株式の相続税評価額が多額になり、将来の相続時に多額の納税負担に苦しむことも珍しくありません。企業オーナーが取り組むべき事業承継対策についてみていきましょう。

事業承継の節税対策の具体的な方法

ここまでは事業承継全体の概要と、争族問題の対処方法について解説をしてきました。ここからは中小企業の事業承継の節税対策について専門の税理士が解説を行います。事業承継の節税対策は専門家である税理士でも難しい分野ですが、まずは節税対策のラインナップを知り、自社に適合した対策を選択していくことが大切です。

 

まず前提として中小企業の事業承継とは、「自社株式の2/3以上を後継者へ譲る」ことがゴールとなります。2/3以上の自社株式を保有することで会社法上は重要な意思決定のほとんどを行うことが可能となるからです。

1.シンプルな生前贈与の活用が鍵

すでに後継者が決まっている場合には、現オーナーの相続時に自社株式を渡す人よりも、後継者が経営に関与しているときに自社株式を渡すという選択をとる人が多いと思います。そして自社株式を渡す際に問題となってくるのか、自社株式の評価額です。

 

<自社株式評価の引き下げの目的>

事業承継対策では、株式を移転する際に必ず税金や買取資金等の問題が生じる

自社株式の相続税評価が高いままだと、後継者への生前贈与や組織再編時、実際の相続発生時に、高い税負担がのしかかる

事業承継対策においては、「一時的に」自社株式の評価引下げ対策を行い、株価が下がっている段階で対策を実行することが大切。

 

このようなことから、多くの事業承継対策は「自社株式の評価引き下げ対策を行った後に、後継者へ生前贈与や譲渡をするスキーム」をとります。そしてその中でもポピュラーな方法が「生前贈与」です。生前贈与を利用した方法は大きく3種類あります。

 

①暦年贈与を利用して毎年コツコツ贈与

自社株式の評価額がさほど高くない方にお勧めの方法です。贈与税は年間110万円以内であれば非課税で贈与することが可能ですので、自社株式の評価がさほど高くなければ毎年コツコツと110万円以内の範囲で贈与を行うことにより、無税で株式を後継者へ移転することが可能です。

 

また年間110万円を超えて贈与をすることも可能です。その場合には贈与税がかかりますが、直系尊属からの贈与については税率が優遇されています。

 

※「20歳以上の者」は、令和4年4月1日以後の贈与では「18歳以上の者」となります
【図表3】 ※「20歳以上の者」は、令和4年4月1日以後の贈与では「18歳以上の者」となります

 

このように年間500万円を贈与しても実効税率は9.8%程ですので、相続税との比較で有利であれば贈与税を支払ってでも生前贈与を積極的に行うオーナーも多く見られます。

 

②相続時精算課税制度を利用して一気に事業承継を済ませる

次に自社株式の評価が高い企業で用いられるのが、相続時精算課税制度を利用した生前贈与です。

 

「相続時精算課税制度」とは、60歳以上の祖父母や父母から20歳以上(※)の子や孫へ贈与をする場合に2,500万円までの贈与であれば贈与税が非課税になる制度のことです。また2,500万円を超える金額を贈与した場合でも、2,500万円を超えた分に対して一律20%の贈与税ですみます(※令和4年4月1日以後の贈与では「18歳以上」となります)。

 

しかしながら、「相続時精算課税」という名称のとおり、相続が発生した場合には本制度を利用して贈与した金額を全て故人の相続財産に加算して相続税を計算するため、原則として相続税の節税対策にはなりません。相続発生時に贈与した際の価額を持戻すのですから、節税にならないのに、なぜ利用するのか? という声があります。この相続時精算課税制度を事業承継で利用するポイントは2つあります。

 

その1:2,500万円を超えた部分は一律20%の贈与税で済む

自社株式の評価が高い場合、引き下げ対策を行ったあとでも、一度に生前贈与を行ってしまうと高い贈与税(最高55%)がかかってしまいます。しかし相続時精算課税制度であれば、2,500万円を超えた部分は20%で済むためです。さらに将来の相続税から支払った贈与税相当額を控除することが可能となるのです。

 

その2:贈与後の自社株式の価値上昇を考慮しなくてもいい

相続時精算課税制度の特徴として、相続時に持ち戻す額は「贈与時点」の価額です。つまり事業承継対策によって引き下げた自社株式の評価で生前贈与を行っておけば、贈与後に会社の経営状態が良くなり株価が上昇した場合でも、上昇分が相続時に反映されないため相続税の支払いを抑えることが可能です。

 

このような2つの特徴があることから、自社株式の評価引き下げ対策が行われた後で相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行うということがあります。

 

③事業承継税制を利用した生前贈与

最後に事業承継税制を利用した生前贈与があります。事業承継税制の制度は、後継者が相続や贈与によって自社株式を引き受けた場合、一定要件を満たせばその株式に係る相続税や贈与税が納税猶予される制度です。

 

発行済議決権株式総数の3分の2までの税額について、相続税は80%、贈与税は全額が猶予され、大きく税額負担を軽減させることが可能です。なお、令和9年12月31日までは特例措置を適用すれば、すべての株式にかかる税額について、相続税、贈与税ともに全額が猶予の対象になります。この事業承継税制は創設当時、適用要件が厳しすぎたため、利用する企業の数は非常に少なかったのですが、利用しやすい制度となるよう改正が重ねられています。

 

ただし、一度適用を受けると、納税が免除されるわけではなく猶予されるものですから、適用後に要件を満たさなくなった場合には、利子も含めて納税が必要となりますので注意が必要です。

 

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本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。

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