ランドセル姿の小学生がコーヒー片手にモーニング
私は名古屋のコーヒー卸商の三男坊として育ちました。
名古屋市内の遊技場や喫茶店に自家焙煎のコーヒーを売る商売です。
父が社長、母が事務&喫茶店担当、兄が配達。
父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃんで経営する典型的な三ちゃん経営です。
実家の1階はコーヒー豆の麻袋、さらにはどでかいコーヒーの焙煎機で占拠され、残りの半分が直営の喫茶店。
必然的に家じゅうがコーヒーの匂いで充満しています。小学校に入り、
「いしはらくんってコーヒーの匂いがするよね」
と先生に言われるまで、これがコーヒーの匂いとは気がつかず育ちました。
朝ごはんは毎朝、名古屋のモーニング。
お客さんに交じって、お代わり自由のコーヒー(牛乳入り)とトースト&ハムエッグ、それに父が朝早起きをして作っているポテトサラダを食べる。
ランドセルを背負った小学生がコーヒー片手にモーニング。今思えば笑えます(笑)
夜は店が閉まった8時過ぎから、喫茶店で晩御飯。
これが石原家の食卓でした。
そんな晩御飯を食べる時に、
父親はよく仕事の話をしてくれていました。
「今日はこんな配達先へ行ってこんなトラブルがあった」
とか、
「こんな新しい案件が舞い込んできた」
なんて、苦労話や自慢話を聞くのが楽しかったです。
小学生の自分に父が語った「商売の原点」
ふと、石原が
「お父さんの商売は契約とかあるの???」
なんて生意気なことを質問しました。
小さい頃から商売は好きでしたから、どこかで聞きかじってきたんでしょう。
ーー興味本位の質問でした。
その時の父親の答えが、私の現在に至るまでの商売の原点となっています。
自分の興味本位の質問に、ビールを飲みながらも、きりっとまじめな顔をして答えてくれました。
「俺らには契約なんて存在しない。だから、今お前が食べているそのごはん。もし明日、お客さんに『石原さんもう来なくていいよ』と言われたらおしまい。明日から君は、そのごはんを食べることはできない。」
と。
いかがでしょう?
当たり前に食べられると思っていたご飯が、明日から食べられないかもしれない…。
こんなことを、まだ右も左もわからない子どもに言う親がいるでしょうか(笑)
商売人の子として育ち、社会に出てわかったことがあります。
それは、父の言葉から教わったこと。
「お客さんの信用がなくなれば、明日のご飯が食べられないかもしれない。」
これは、商売の原点であるということです。
父のこの言葉には、商売をするうえで大切な2つの要素が隠れています。
1つは、「明日の保証はない」ということ。
もう1つは、「信用がすべて」ということです。
保証がないからこそ頑張れる“商売人”の心構え
商売をしていると、社員が毎朝来てくれて、お客さんがモノを買いに来てくれて、お金を払ってくれる…それが日々当たり前のように繰り返されます。
でも果たしてそれは、本当に「当たり前」なのでしょうか?
違いますよね。
私のクライアントさんでも、
ある日突然近所に大型店ができて、お客さんが誰も来なくなってしまった…。
とか、
朝会社に行ってみたら、社員が誰も来なかった…。
とか、
そうした経験をしている会社はいくつもあります。
これをお読みの経営者の方のなかには、似たような経験の1つや2つはされたことがあるという方が少なくないのではないでしょうか?
父の言葉のように商売をしている以上、明日の保証なんてものはありません。
たとえ契約書があったとしても、お客さんから「もういいよ」と言われればおしまいなのです。
もし社員から総スカンを食らってしまえば、会社は成り立たないのです。
しかし、保証がないからこそ、
「よし、今日もお客さんに喜んでもらうためにがんばるぞ」
「社員みんなが幸せになれる会社にしてみせるぞ」
と緊張感や危機感を励みに変えて頑張れるのだと思います。
これこそが“商売人”の心構えですよね。