従業員が「納得しやすい」理由の提示が重要
退職勧奨をスムーズに進めるためのポイントは、次のとおりです。
5.無理に自己都合扱いとすることは避ける
従業員の退職について、会社からすれば、できるだけ自己都合退職扱いにしたいところでしょう。
しかし、先ほど解説したように、退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職です。従業員が交渉に応じて退職に合意をしたからといって、そのことをもって自己都合退職となるわけではありません。
無理に自己都合退職扱いにしようとすると、従業員との関係性が悪化して交渉が決裂してしまう可能性があるほか、損害賠償請求へと発展する可能性もあります。そのため、無理に自己都合退職にしようとすることは避けるべきでしょう。
自己都合退職か会社都合退職かの判断に迷う場合には、労使問題に詳しい弁護士までご相談ください。
6.従業員が納得しやすい理由を提示する
退職勧奨をする場合には、退職勧奨の対象となっている従業員が納得しやすい理由を提示するとよいでしょう。
たとえば、その社員に遅刻が多く注意をしても改善されなかったり、営業成績の低い状態が続いていたりするのであれば、このような内容を明確に伝えるなどです。
ただし、パワハラや退職強要と認定されてしまうことのないよう、伝え方には十分に注意しましょう。いくら相手に非があったとしても、相手の人格を否定する言動や暴言にあたる言動は、行うべきではありません。
また、「あなたが悪いので退職してほしい」という言い方は、退職強要や解雇であると判断される可能性があるほか、相手に遺恨をのこす可能性があります。
そのため、「この会社には向いていないかもしれません」、「ほかに、もっと活躍できる場があるのではないかと思います」など、やわらかい言い方を心がけましょう。
なお、退職勧奨を伝える側としても、面談の場に臨む際には緊張するかと思います。そのため、伝えるべきことをあらかじめまとめ、シミュレーションをしたりメモを持参したりすることをおすすめします。
7.退職金上乗せや転職先あっせんなど「適切な条件」を提示する
退職勧奨をする際には、相手にとって有利となる条件を提示するとよいでしょう。
具体的には、退職金を上乗せすることや、転職先をあっせんすることなどです。適切な条件を提示することで、退職に応じてもらえる可能性が高くなります。
ただし、マイナスの条件を提示してしまうと、退職強要に該当する可能性がありますので注意しましょう。
たとえば、「退職勧奨に応じなければ解雇する」、「退職勧奨に応じなければ、(相手の望まない)〇〇へ配置転換をする」などです。
8.あらかじめ弁護士へ相談する
従業員側からすると、退職は生活の糧を失いかねない非常に大きな出来事です。だからこそ、退職勧奨はスムーズに進むケースばかりではありません。
もちろん、無事に合意まで進む場合もありますが、交渉が決裂する場合もあります。また、退職強要であるなどとして、従業員側が訴えを起こしたり労基署へ駆け込んだりする場合もあるでしょう。
そのため、退職勧奨を検討する際には、あらかじめ、労使問題にくわしい弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士へ相談することで、提示すべき適切な条件や退職勧奨の進め方などについて具体的なアドバイスが得られるほか、万が一交渉がこじれてしまった場合の対応もスムーズとなるためです。
退職勧奨は「訴訟」の危険と隣り合わせ
退職勧奨を発端とした退職は、原則として会社都合退職となります。無理に自己都合扱いとすれば交渉が決裂する可能性が高いほか、訴訟へ発展するリスクもあるため、このようなことは行わないようにしましょう。
また、退職勧奨が退職強要にあたらないようにも注意しなければなりません。
退職勧奨は非常にナイーブな対応が必要となりますので、進め方などについて、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。
西尾 公伸
Authense法律事務所
弁護士