ホームページは「開設したら終わり」ではない
インターネットで商品を買ったり、求人情報を探したりすることが当たり前の時代になりました。企業側も販路拡大や採用強化などを目的として、Amazonや楽天など大手ECサイトでの販売や採用情報サイトへの掲載を積極的に行っています。
一方で、企業のホームページは開設当初のまま放置されているケースが多いのが実情です。現在のような情報化社会において、ホームページは企業の経営基盤となるものです。うまく運用すれば新規顧客の開拓や人材採用などに限らず企業のさまざまな経営課題を解決します。
しかし多くの経営者がそのことに気づいていません。ホームページなど誰も見ていないとさえ思っています。そもそもホームページは、作っただけで企業からの問い合わせや求職者のエントリーが増えるわけではなく、戦略的に運営してこそ効果を発揮するのですが、このような意識をもっている経営者は少なく、絶好の機会をみすみす逃しているのです。
毎月5000人もの新規顧客候補を逃していたと発覚
例えば以前、このようなことがありました。リフォーム会社の経営者から、新規顧客の獲得に苦労していると相談されたのです。
リフォーム会社は全国どこの物件でも対応できるわけではなく、例えば東京の西部と神奈川だけというように対応できるエリアが限られています。しかし、リフォームを依頼する本人が必ずしもその地域に住んでいるとは限りません。北海道の人が東京のマンションを購入してリフォームするということもあるので、新規顧客獲得のためにはより広い地域にアピールする必要があるということでした。
私としてはそれこそホームページの出番だと思ったのですが、その経営者はまったくピンと来ない様子でした。会社のホームページは何となく作っただけのただの飾りだから、集客とはなんのつながりもないという認識なのです。どうせうちのホームページなんて誰も見ていないだろうと決めつけて、なかなか話を聞いてもらえませんでした。
そこで、私はそのリフォーム会社のホームページを調べさせてもらい、毎月月間5000人以上が閲覧していることを伝えました。閲覧者数を確認するのは、ホームページ運営のもっとも基本的で簡単なことなのですが、そのときの経営者の驚きぶりからすると、これまでまったく知らなかったようです。
毎月5000人のアクセスは、中小企業のホームページとしては決して多い数字ではありません。しかし、数字が明確になったことで、リフォームに興味があり業者を探していたと思われる、まったく新しい顧客候補を毎月5000人もみすみす見逃していたのだということが理解でき、経営者としてショックを受けたのだと思います。
会社では新人の担当者がほかの仕事と兼任してホームページを更新していました。アクセス数を知った経営者はさっそく営業部長も加えた運営チームを作り、話し合いを重ねてホームページを改善しました。その後も更新を繰り返し改善した結果、今では独自のノウハウが蓄積されて競合他社のシェアを奪うほどの売上となっています。
アクセス解析によって大きな取引先を得た会社も
アクセス解析では、数だけでなく相手の情報をある程度つかむこともできます。別の例で、ある小規模な製造業者の依頼を受けてホームページを調べたところ、大手自動車メーカーA社が頻繁にアクセスしている事実が分かりました。私がそのことを伝えると経営者は飛び上がらんばかりに喜んで、さっそくホームページの積極的な改善に乗り出しました。
A社が興味をもちそうな部品のアピールを増やし、自社独自の技術を強調する記述を増やしながら更新を続けていくと、実際にA社から問い合わせがあり、見事取引を開始できたのです。
現在はどんな商材でも、商談や発注をする際にはインターネットで情報収集します。
ホームページは24時間365日働く営業担当者である、という言葉があるように、ホームページを開設していれば今までこちらからは見えていなかった新たな顧客が自分から見つけて問い合わせをしてくれるのです。
近年の人手不足で営業活動がままならなくても、きちんとホームページを運営すれば、少ない人手と経費でも継続して新規顧客を開拓することができます。また、中小企業であってもホームページを採用の窓口として活用することが珍しくなくなってきています。
ホームページは、休みなくローコストで働いてくれる有能な営業担当者であり、採用担当者でもあるのです。
また、機会を創出するだけでなく、やりとりの記録に基づいて次のアクションにつなげていくのも、ホームページは得意としています。例えば、過去に契約した顧客との関係を何年、何十年という長期間にわたって維持し、ホームページを通して相手に合ったおすすめの商品を提案することを実現している企業も存在します。
「サイト開設が売上増加に直結しない企業」の根本原因
にもかかわらず、ホームページは売上に直結しないと考える経営者が多いです。中小企業庁が発表した中小企業白書2013年版には、小規模企業におけるホームページの開設の有無と販売先数の変化についての調査が掲載されています。この調査によると、小規模企業で5割弱、中規模事業者で約8割が自社ホームページを開設しています。ホームページを開設した企業は、販売先数が「大幅に増加した」が3.7%、「やや増加した」が34.1%でした。一方でホームページを開設していない企業は「大幅に増加した」が0%、「やや増加した」が8.5%と、数値に開きがありました。
注目したいのは、ホームページを開設した企業で販売先数が「変わらない」の割合が、51.3%であることです。つまり、半分以上の企業がホームページを開設してもなんの効果もなかったということになります。
私は多くの企業のホームページ運営を見てきました。インターネットで情報収集するのが当たり前となった今では、小規模企業でも10年前よりさらに多くの割合でホームページを開設しています。しかしホームページの効果を感じている企業は、2013年と同様に半数以下にとどまっていると感じています。
効果が感じられない大きな原因は、そもそも興味がないからです。ホームページは一度作ってしまえば終わりではなく継続的に活用するべきツールですから、制作しただけでは意味がありません。経営者自身がホームページに興味をもたず、アクセス数のチェックすらしないのでは、効果を実感することができないのは当然です。ホームページは、継続した改善をしてこそ成果が得られるものなのです。
経営でもよく使われる言葉にPDCAがあります。くり返しサイクルを回していくことで成果を出していく手法のことですが、これはホームページにも必要なことです。改善を繰り返してこそ、他社には真似のできない成果を上げることができるのです。もちろん最初の段階でホームページをしっかりと作りこむことは大事です。しかし、それ以上にホームページを訪れる人の行動について理解を深めるということが、問い合わせや購入といった最終的な成果を上げるうえで非常に重要です。訪れる人がそのページを見てどんな感情をもつのかを予測し、問い合わせページあるいは購入ページにたどり着いてもらうための導線を改善する必要があります。
訪問者を増やすにはホームページの現状を知ることから
多くの企業では、年に数百万円の広告費を掛けてやみくもにホームページを訪問する人を増やそうとしています。その結果、月に1万人がホームページを見にきたにもかかわらず問い合わせが月に1~2件しかこなかった、というのはよくある話です。年に数百万円の広告費というと、営業担当者1人の人件費に相当します。しかも1万社と商談して成約率が0.01%の成約率の低い営業担当者です。
私の会社にホームページのリニューアルを依頼してくる企業のほとんどが、すでにあるホームページをほとんど更新していません。ホームページを継続して改善し、成果に結びつけることができずに放置してしまっているのです。ホームページに関する予算を制作のためだけにとって、継続した改善を視野に入れていないケースがほとんどです。
制作会社側にも問題があります。ホームページ制作業者はちまたに溢れていますが、目先の売上を伸ばすために制作費を最大化させて運営段階の提案をしない企業や、ホームページを運営することでいかに成果を出すかというノウハウをもっていない企業もなかには存在します。そして、ホームページの制作が終わるとやり取りが途絶えてしまい、取り残された企業は高い経費を掛けて作ったホームページの効果を実感できず、不満を抱えて、また別の制作会社にホームページのリニューアルを依頼するのです。
そうした状況に陥っている会社の共通点として、ホームページの制作も更新も改善もすべて制作会社に丸投げしようとしていることが挙げられます。私は、ホームページの改善は自社で進めるべきだ、と断言します。もしも自分たちはITの専門家ではないからそんなことはできないと考えているとしたら、それは大きな間違いです。どのようにホームページを改善すれば成果につながるのか、答えは制作会社ではなく自社のなかにあります。
商材の情報をどう伝えるか、自社にふさわしい人材をいかにして引き付けるかということは、ITの専門性以前の問題で、自社のビジネスの本質に関わることだからです。その上で、いかにクリックさせるかといったことについて企業が自ら試行錯誤をしてノウハウを積み上げるからこそ、競合企業がまねのできないホームページができあがるのです。
具体的にどのように改善すればよいかというと、答えは簡単です。ホームページの利用状況を分析するツールであるアクセス解析ツールを使って、ホームページの現状を把握できるようにすればよいのです。
●ホームページに何人の人が訪れているのか
●どのページを見ているのか
●どのページを見ていないのか
●どのページでサイトから離脱して(出ていって)しまっているのか
●パソコンとスマートフォン、どちらの端末でホームページを見ているのか
こうした状況についてのデータが把握できれば訪問者の行動が見えてきます。訪問者の行動が分かれば、訪問者が購入ページや問い合わせページにたどり着くためにどのようなコンテンツを用意すればよいのか、どこにどのようなボタンを配置したらクリックしてくれるのか、スマートフォン専用のページを用意したほうがいいのか、といった改善策は自然と見えてきます。
しかし、多くの企業はホームページの現状を把握すらしていません。私の会社で支援している企業を見ていると、ホームページを開設している企業の9割はなんらかのアクセス解析ツールを導入しています。しかしそれを活用できているのはほんの1割にすぎません。
経営者は経営をするうえで、数字を見てさまざまな判断をしています。ホームページの指標も経営指標と同じように真剣に見てほしいと私は考えています。多くの経営者は数字に強く、戦略的なセンスをもっていますので、ホームページの状況さえ把握できれば、改善策は自然に見えてくると断言できます。
浜野 耕一
株式会社コウズ 代表取締役