経営感覚のある税理士を選ぶことが相続対策のカギ
“少し財産があって裕福に暮らしていければ”と多くの人は考えるでしょう。その目的は幸せになるためと考えることができます。私自身、もちろんそうあることを願っていますが、実際はなぜか幸せの前に戦いや憎しみが出てきてしまう例がたくさんあります。
社会契約論ではありませんが、幸せには人々が良好な関係を築くための契約が必要なのではないでしょうか。つまり、何もしないことが争いをひどくする原因だと私は思うのです。したがって、財産を受け継いだ以上、それを後継者に引き渡すことは私的事業とでもいうものだと解釈すべきではないでしょうか。
マネジメントで考えると大事な要素としてよく取り上げられる経営資源は「人、もの、金」や「その他の有用な情報」などといわれています。ある意味財産は、金もしくは換金性のある財産と考えれば、マネジメントの重要な要素である「金」の部分に相当するわけです。問題は、古く大きな豪邸がお化け屋敷になっている状況ではすでにマネジメントされていないだけの話です。
そこで考えるべきことは、財産バランスを流動性のよい割合にすることです。そして、そのために人を利用することが必要です。人とは誰かといえば後継者もそうですし、アドバイザーなど外部専門家も必要です。また、親族でも財産を引き継ぐ人は、より財産維持や共同生活に協力的な人として早くから後継を約束しておくことをお勧めします。
どのようによいバランスをつくっていくのかについては、やはり第三者である専門家に早い段階からかかわっていただくことが望ましい結果をもたらすと思います。
昔はわずかであった裕福な人々に顧問弁護士がつきました。社会的に見てみますと、中くらいの裕福な人々が相当数増えた社会に変わってきています。数%に満たない財産家だった時代は弁護士を顧問とするのは当然の成り行きと考えられましたが、この時代に顧問弁護士を抱えるのは費用的にバランスが悪いと私は考えます。
日本の弁護士は米国などに比べて圧倒的に少ないことが知られています。それに対して日本では約7万人の税理士がいるといわれますが、その中で活動していると思われる5万人は、そのアドバイザー的立場としてはちょうど具合のよいバランスと考えています。つまり、遺産承継アドバイザーの立場としては知識と数のうえで税理士が適当と考えられるということです。
資産税の専門を名乗る税理士であればなおさらで、経営感覚のよい税理士を選ぶことがよりよき相続対策を成功させるカギを握るのです。
最終目的は「家族が幸福になる」こと
マネジメントを行うにあたっては、それによって実現したい最終的な目的を持つことがとても大切です。相続税対策はいったん始めると、ともすれば税金を減らすことばかりに意識がとらわれがちになります。しかし、本当に大事なことは相続税の負担を軽くすることではなく、その結果として、家族が幸福になることのはずです。
逆にいえば、たとえ相続税が安くなるとしても家族が不幸になってしまうような相続税対策は全く意味がありません。それどころか、そのような相続税対策は害悪であるとさえいえるでしょう。
相続税対策は、単に相続税を減らすのではない、家族が幸せになるために行うものだ︱︱そのことを忘れないようにするために、マネジメントの最終的な目的をもつことはきっと役立つはずです。
「相続が終わってから少なくとも5年間は家族で争いが起きないようにする」ことを目的としてもよいでしょうし、また、思い出の場所があれば「節税によって得たお金で、家族にその地を訪ねてもらう」ことを目指してもよいでしょう。
そのように、何らかの最終的な目的を意識しながら相続税対策を行えば、税金を減らすことばかりにとらわれてしまうような事態は避けられ、結果として、本当に大事なもの、すなわち家族の幸せを見失うようなことはないはずです。