特別なノウハウと専門知識を要する相続税の税務
相続税対策を目的としたマネジメントを継続的にかつ着実に進めていくためには、やはり税務の専門家である税理士のサポートが必要となるかもしれません。
もっとも、税理士選びには用心が必要です。意外に思うかもしれませんが、税理士の中には「相続税を今までに扱ったことがない」という人が少なくないからです。相続税の申告件数は年間で5万件程度にすぎません。このように、相続税関連の業務はそもそも絶対数が少ないので、かかわる機会をもてる税理士はどうしても限られてしまうのです。
しかも、相続税の分野は税務業務の中でも特別なノウハウと専門知識が求められます。万が一、これまで相続税を扱ったことがない、あるいは相続税を不得手としているような税理士にサポートを依頼してしまったら、不十分な、もしくは誤った相続税対策を勧められてしまうおそれがあるでしょう。
「経験」がモノを言う税務調査への対応
また、相続税に関しては、先に触れたように、非常に高い確率で税務調査が行われています。したがって、その対策も必要となります。相続税の税務調査では、税務署が必ずチェックする特有の重点ポイントがあります。
代表的な例としては「名義預金」を挙げることができるでしょう。名義預金とは、預金の実質的な権利者が、口座名義となっている被相続人の配偶者や子供、孫などではなく、被相続人であると認定された預金のことです。
例えば、甲が孫の乙名義で預金口座を開き、乙に贈与するつもりで毎年100万円ずつ入金していたとします。しかし、乙はその事実を知らないままであり、甲が亡くなったときには乙の口座には1000万円のお金が残されていました。甲の思惑通りに、この1000万円が乙に贈与されたものと認定されるのであれば相続税の対象にはならないはずです。
しかし、税務調査が行われた場合、通常、このケースでは、甲から乙への贈与があったとは認められません。贈与が成立するためには、贈与される側が「もらう」という意思を表明する必要があるためです。乙は、自分の口座があることや、さらにはそこに毎年100万円ずつ入金されていたことを認識していなかったのですから、「もらう」という意思を表明しているとはいえません。
したがって、贈与は成立せず、そうである以上、1000万円は乙の財産ではなく甲の財産であることになり、相続税が課されることになるのです。
相続税を専門とする税理士であれば、税務調査の前に、この名義預金の対策は当然のように行います。しかし、相続税に不慣れな税理士であれば、問題そのものを見落としてしまうおそれがあるのです。その結果、有効な対策を打てないまま税務調査を迎えることとなり、申告漏れを指摘され加算税等のペナルティーを科されることになるかもしれません。
なお、上記のケースとは異なり、甲と乙の間で、毎年100万円を贈与するという契約が結ばれていたような場合にも、注意すべき点があります。この場合、初年度だけでなく、次年度以降も毎年、贈与契約書を作成するなどして「もらう」という意思が何らかの形で示されている必要があります。さもなければ、贈与を否認されるおそれがあるので注意しましょう。