自分が動けるあいだは「成年後見人」をつけたくない…障がいをもつ娘の相続対策、どうすればいい?【司法書士が解説】

自分が動けるあいだは「成年後見人」をつけたくない…障がいをもつ娘の相続対策、どうすればいい?【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

障がいをもつ子の親にとって切実なのが「親なき後」の問題。自分が亡くなったあとの子の行く末を不安に思う親は少なくありません。今回は優司法書士法人、上村拓郎代表のもとへ相談のあった、知的障がいをもつ娘の相続対策に関する事例を中心にみていきましょう。
※本連載は、上村拓郎氏の著書『相続をちょっとシンプルに: 気づきをうながすためのケアフル相続入門』(灯光舎)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

遺産分割協議や財産管理はどうする?

まず、こういったケースで問題になるのが、資産承継の問題です。何も対策がなされていないときは、遺産分割協議が必要です。そして、長女には必ず成年後見人が選任されます。そうなると、遺産分割協議のために選任した成年後見人が長女の財産を一生管理していくことになります。これを回避するには、遺言書で法律専門家を遺言執行者に選任することで、遺産分割協議をせずに資産承継をすることが確実に可能になります。

 

ただ、これだけでは十分な対策ではありません。知的障がいをもつ長女は、自分で相続した不動産を売却することも財産管理自体もむずかしい。加えて、依頼者の母親の意志としては、財産を長女に多く承継させ、一生困らないようにしたいのです。

 

依頼者の母親が望む形を作り出すために有効な手段こそ民事信託・家族信託です。長男が協力的であることが必須ですが、委託者(財産を託す人)を依頼者の母親とし、受託者(財産を託される人)を長男とし、受益者(信託による財産運用による利益を得る人)を長女とする信託契約を締結することで、その想いが実現できます。

 

母親が亡くなった後に、定期的に施設利用料や生活費を長女に渡していくという内容にすることで、長女のためにお金を使える状態にすることができます。この契約の形については、贈与税がかからないように、当初の受益者を依頼者の母親にすること(自益信託)で、母親の扶養義務の範囲内で長女に生活費を支給することや、当初の受託者を母親にして、母親の健康状態によって受託者を長男に変えられる設計にした自己信託とする方法も検討できるかもしれません。

 

例えば、障がいのある子が一人っ子で、その子の後に財産を引き継ぐ人がいない場合、国庫に帰属する可能性が高くなります。そうではなく、わが子の世話をしてくれた施設や団体に寄付したいと思う方もいるでしょう。そういう場合でも、民事信託・家族信託は有効です。さきほどの事例で考えると、委託者を母親、信頼できる親族を受託者、受益者を障がいのある子として信託契約を締結し、帰属権利者を施設や団体とすることで、希望する施設や団体に寄付することも可能になります。

 

また、障がいのある子のために生命保険に加入している方も多いでしょう。そういった方々のために生命保険信託というものがあります。この制度では、事前に支払われる金額や回数を決めておくことができ、定期的に少額の保険金を手にすることが可能になります。第三者に搾取されることや、子ども本人が不必要なものに財産を費やしてしまうことを防止する策として有効です。

 

万が一、受取人(障がいある子)が亡くなった場合に、次に支払われる人の順番も決めることが可能です。重度の障がいをもっている場合には、成年後見制度を利用し、後見人に委託することも念頭に置いておくとよいと思います。

 

このような、「親なき後問題」について考えてみたときに、遺言書作成は必須になるでしょう。さらに民事信託・家族信託や任意後見、生命保険信託と、さまざまな選択肢を併用することで、不安や悩みを解決することができるのではないかと思います。漠然とした不安や悩みを顕在化させるために法律専門家に相談なさることから始めていくこともおすすめします。

 

また、信頼できる家族がいないことが理由で財産管理をあきらめていた方へのサービスも充実してきています。今年(令和4年)には、民事信託士である司法書士や弁護士を中心にした福祉型の信託に特化した信託会社が誕生するなどの動きがありました。

 

 

上村 拓郎

優司法書士法人 代表社員

 

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