
生きているあいだに身の回りの人に自分の想いを宣言するだけでは遺言をしたことにはなりません。遺言書にしないと、残された家族は思わぬ憂き目に遭うかもしれません。今回は優司法書士法人、上村拓郎代表のもとへ相談のあった「特定の相続人に指定した分の財産を相続させたい場合」の事例を紹介します。
※本連載は、上村拓郎氏の著書『相続をちょっとシンプルに: 気づきをうながすためのケアフル相続入門』(灯光舎)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。
特定の相続人に指定した分の財産を相続させたい
特定の相続人に指定した分の財産を相続させたいという想いの方もおられます。そのように思われる理由として、先祖代々の土地を直系長男が引き継ぐ必要がある場合や分割がむずかしい土地や家などの財産をもっているときなどがあるでしょう。
ここで恐縮ながら僕のお話をさせていただきます。僕の父は、自分が亡くなったときはすべての財産を母に相続してもらうよう希望しています。兄にもそのことは言い聞かせてあるということです。そして、母も父にすべて相続してほしいという想いです。
自分のこととなると、僕ら兄弟が現時点で争いになることはないと思ってしまうのですが、将来は何が起こるかわかりません。僕が多額の借金を背負っていることもあるかもしれませんし、僕が親よりさきに亡くなることだって可能性としてはない話ではない。また、僕に何らかの身体的な問題が発生し、判断能力を失い、植物人間の状態になるかもしれません。
そうなった場合、僕を除いて遺産分割協議をするのではなく、「成年後見人」が僕に代わって遺産分割協議に参加することになります。成年後見人とは、認知症などにより判断能力が低下し、日常生活や財産管理が困難となってしまった場合に、日常生活に関する手続きや財産管理をサポートする役割で家庭裁判所によって選任される人のことです。成年後見人は、本人の代理人としてその権利を守る役目があり、本人の権利を害する内容の遺産分割協議はできなくなります。
万が一、僕の代理人として成年後見人が選任されたときは、僕の法定相続分を確保する遺産分割の内容でないと成立しないということになります。父や母の想いは実現しません。自分たちの想いを遺産分割協議で叶えたいときは、被相続人の意思や想いを相続人が理解していること、代理人を選任しないでよい状態にあることが必須といってよいでしょう。
例えば、父が亡くなるまでに、僕だけでなくみんなが健康であるとは限りません。そのことを想定すると、父にも母にも自分が亡くなった際には、残った配偶者にすべての財産を相続させる旨の遺言書を作成しておくように頼むしかありません。
以上は僕の身近な事例になりましたが、もう一件別の事例をご紹介します。
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