介護施設へ入居する70歳母、家を「家族信託」することに…認知症による「資産凍結リスク」と回避法を司法書士が解説 (※写真はイメージです/PIXTA)

2025年には高齢者の約20%が認知症になると予測されています。認知症になると、資産が凍結されかねないことから、親が子に資産を委託して運用・管理する「家族信託」が注目を集めています。今回は、優司法書士法人、上村拓郎代表のもとへ相談のあった、介護施設へ入居する70歳母と子による実家の信託に関する事例を中心にみていきましょう。
※本連載は、上村拓郎氏の著書『相続をちょっとシンプルに: 気づきをうながすためのケアフル相続入門』(灯光舎)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

母は70歳、実家の「信託」を決断

民事信託・家族信託については、テレビや新聞を見て相談に来られる方々が大多数です。「うちの家族も民事信託・家族信託をしておいたほうがよいのではないかな」――これから紹介する事例もそんな家族でした。

 

数年前に父親が亡くなり、一人で実家に住む母親が介護施設に入居するタイミングでの相談でした。家族関係は、母親(70歳)と長女(50歳)、次女(48歳)、三女(46歳)でした。内容は母親が住んでいた家の信託について。母親の女性から「自分がしっかりしている間は、思い出のつまった家を処分したくはないけれど、もし認知症になったときは娘たちに処分を託したい」というものでした。三姉妹も実家のことが気がかりだったということです。

 

僕と相談の上、母親と長女との間に不動産に関する信託契約書を締結しました。母親が、長女に財産の管理処分権限を単独でもたせることにより、母親の判断能力が低下して売却処分が必要になった際には、動きがとれる状態にしました。家族会議のもとでこの信託契約が締結されたため、スムーズにことが運びました。

 

受託者(財産を託される人)は長女とし、長女に何かあった場合には次女が、次女に何かあった場合には三女が受託者になるように第二受託者、第三受託者まで定めました。こうすることで想定外のアクシデントがあっても、この信託の目的が実現できる安心な設計を提案しました。三姉妹全員が母親の健康状態に対して一丸に取り組む意味でも名前を連ねたことはよかったと思います。

 

もし、この契約をしなかった場合は、母親の認知症が進み判断能力が無くなってしまったとしたら、不動産の売却も賃貸に出すことも基本的にできなくなります。この信託契約により、契約締結時から不動産を母親の代わりに長女が管理することになり、長女の判断とタイミングで不動産を売却もしくは賃貸に出すことなどの運用・管理・処分ができるようになりました。これで資産が凍結されるリスクを回避することができます。

 

所有者本人の判断能力の低下が原因で資産が凍結されてしまっている場合があります。こういったことをできるだけ防ぎたい。家族を大事に想う、それを形にできる方法の一つとして民事信託・家族信託の制度が存在するのだと思います。

 

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優司法書士法人 代表

1976年岐阜県生まれ。同志社大学法学部卒業。司法書士(簡裁訴訟代理等関係業務認定)、家族信託専門士、民事信託士、終活カウンセラー。
優司法書士法人 代表社員

優司法書士法人ホームページ

著者紹介

連載事例に学ぶ、将来に向けていまできる相続対策

相続をちょっとシンプルに 気づきをうながすためのケアフル相続入門

相続をちょっとシンプルに 気づきをうながすためのケアフル相続入門

上村 拓郎

灯光舎

自分だけでなく、家族や身のまわりの人たちと一緒に相続を考えるきっかけにしてもらいたい本。 本書は、相続対策の実務よりも、まずは相続を知るために「読む」ことを意識した相続エッセイです。相続は発生してからではなく、…

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