母は70歳、実家の「信託」を決断
民事信託・家族信託については、テレビや新聞を見て相談に来られる方々が大多数です。「うちの家族も民事信託・家族信託をしておいたほうがよいのではないかな」――これから紹介する事例もそんな家族でした。
数年前に父親が亡くなり、一人で実家に住む母親が介護施設に入居するタイミングでの相談でした。家族関係は、母親(70歳)と長女(50歳)、次女(48歳)、三女(46歳)でした。内容は母親が住んでいた家の信託について。母親の女性から「自分がしっかりしている間は、思い出のつまった家を処分したくはないけれど、もし認知症になったときは娘たちに処分を託したい」というものでした。三姉妹も実家のことが気がかりだったということです。
僕と相談の上、母親と長女との間に不動産に関する信託契約書を締結しました。母親が、長女に財産の管理処分権限を単独でもたせることにより、母親の判断能力が低下して売却処分が必要になった際には、動きがとれる状態にしました。家族会議のもとでこの信託契約が締結されたため、スムーズにことが運びました。
受託者(財産を託される人)は長女とし、長女に何かあった場合には次女が、次女に何かあった場合には三女が受託者になるように第二受託者、第三受託者まで定めました。こうすることで想定外のアクシデントがあっても、この信託の目的が実現できる安心な設計を提案しました。三姉妹全員が母親の健康状態に対して一丸に取り組む意味でも名前を連ねたことはよかったと思います。
もし、この契約をしなかった場合は、母親の認知症が進み判断能力が無くなってしまったとしたら、不動産の売却も賃貸に出すことも基本的にできなくなります。この信託契約により、契約締結時から不動産を母親の代わりに長女が管理することになり、長女の判断とタイミングで不動産を売却もしくは賃貸に出すことなどの運用・管理・処分ができるようになりました。これで資産が凍結されるリスクを回避することができます。
所有者本人の判断能力の低下が原因で資産が凍結されてしまっている場合があります。こういったことをできるだけ防ぎたい。家族を大事に想う、それを形にできる方法の一つとして民事信託・家族信託の制度が存在するのだと思います。
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